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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 202

『近世畸人伝・続近世畸人伝』(伴蒿蹊著、三熊花顛挿画、宗政五十緒校注)

2015/05/28
アイコン画像    皆と同じでなくていい?
奇人・変人200余人の衝撃エピソード

 双子コーデとか双子ルックっていうんですか? 先日、電車の中で遭遇しましたが、目撃したこっちのほうがアタフタしてしまいました。靴から洋服まですべて同じ。リュックも同じ。違うのは背だけって、双子だってここまで揃えません。「皆と同じ」に汲々とするあまり、極に走ってしまったのでしょうか? 「同じ」というのは怖いことで、そこには思考がありません。お上の言うまま、全員右向け右、となりかねないなあと危惧しています。

 変わってたってイイんです! 人と違ってイイんです! ってことを確認したくて、『近世畸人伝・続近世畸人伝』を手に取りました。

 「畸人」というのは、いわゆる奇人、変人です。


 〈荘子にいはゆる畸人も、自畸人の一家也〉


 と著者は記しますが、『荘子』の中に、孔子の言葉として、〈畸人なる者は、人に畸して天に侔(ひと)し〉(『荘子』岩波文庫)とあります。人とは違っているけれど、天に等しい。まあ、天然といいますか、自然体といいますか。「皆と同じ」ではなく、自分でいる、ということです。で、そんな変わり者の評伝、正・続合わせて200余り収録したのが本書というわけです。

 本書は現代語訳がついていないので、ややとっつきにくいのですが、そうはいっても1700年代後半に書かれた書物。意味を取ることは難しくありません。

 例えば金蘭斎(こんのらんさい)という人物。「真の老荘者」だと弟子が集まるのですが、講を請うても本がない。弟子が本を買って与えると、すぐに米に替えてしまう。衣服をあげてもしかり。しかたなく、背に「金蘭斎」と大きく書いた着物を贈ると、それを平気で身にまとう。講の最中でも、「代神楽(だいかぐら)」がやってくると、笛や鼓の音に誘われ、〈書生にも謝せず、たゞちに走り出て、小児とともに、彼者のしりにつきてありきける〉。

 いいでしょ? この畸人っぷり。他にも、大蛇に呑まれた夫を助けるため、鎌を持ったまま自分も〈呑れながらこの鎌にて、口より腹まで切裂〉いて助けた奥さん(樵者七兵衛妻)のような強者の話や、市井の風流人など、約200人の畸人が登場します。貝原益軒、池大雅、石川丈山などの著名人も収録されていますが、ポイントは金蘭斎のような無名の人々が数多いこと。

 彼らは「皆と同じ」でなかったがゆえに、こうして取り上げられ、後世にしっかりと足跡を刻んだのでした。

本を読む

『近世畸人伝・続近世畸人伝』(伴蒿蹊著、三熊花顛挿画、宗政五十緒校注)
今週のカルテ
ジャンル伝記/風俗
発表年 ・ 舞台18世紀後半の日本
読後に一言私たちは「有名人」の言動に左右されすぎなのかもしれません。
効用「女性」が多く紹介されているのも、本書の特徴です。
印象深い一節

名言
風狂放蕩かくの如しといへども、其中趣味あり、取べき所あるを挙る也(「題言」)
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