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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

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『今昔物語集4 本朝部』(永積安明・池上洵一訳)

2015/06/11
アイコン画像    少年マンガを凌駕する“単純な強さ”
3週連続「今昔物語集」Ⅱ~その1

 最近、マンガの売れ行き不振が甚だしいそうです。

 例えば、代表格の『週刊少年ジャンプ』。1995年に発行部数653万部のギネス記録を達成したのも昔、今や242万部(2015年1~3月)です。「友情」「努力」「勝利」は、ジャンプの三大原則ですが、もはやこうしたことがウケなくなっているのでしょうか。

 かつての愛読者として思うのは、ジャンプの面白さは、「単純さ」にありました。例えば、黄金期を支えた『ドラゴンボール』も、結局のところ、“誰がいちばん強いか”という話です。手を替え品を替え、物語を練っていくうちに、最近はマンガが複雑化しすぎてしまったのでは? いや、社会が複雑化してしまったのかもしれません。

 そんなことを考えたのは、「単純さ」を楽しむ作品を読んだから。『今昔物語集4 本朝部』に収録されている“力持ち”シリーズです。

 本書には、藤原鎌足をはじめ、平将門や陰陽師・安倍晴明など、著名人が頻出するのですが、物語としておもしろいのは、断然、巻第二十三なのです。

 例えば、相撲取りと学生たちが喧嘩をする「大学の衆、相撲人の成村を試みる語(こと)」(23-21)。相撲取りのひとりが蹴りを入れると、学生はさっとよける。


 〈(学生は)その足をつかんで、その相撲人をまるで細い杖でも持っているようにひっさげ、他の相撲人めがけて走りかかった。他の相撲人どもは、これを見て逃げ走る。学生は、そうしておいて、ひっさげている相撲人を投げ飛ばした〉


 投げられた相撲取りは、1、2回くるっと回転したといいますから、これはもう「マンガ」です。

 「尾張国の女、細畳を取り返す語」(23-18)もすごいですよ。主人公の「尾張国の女」、気立ての優しい女性なのですが、怒ると手がつけられない。船主にからかわれたからと、〈船に荷物を載せたまま、一町(約109m)ばかりも引きあげてから船を置いた〉というのだからたまりません。その船をあとで引かせたところ、500人でも動かなかったそうです。

 今昔物語は、こうした“力持ち”たちを「すごい!」と語り伝えるのです。この単純さ! わかりやすさ! 

 私たちが見失ってしまった「単純さ」が、今昔物語にはあります。だからこそ、1000年近く命脈を保っているというのは、乱暴な捉え方でしょうか。


本を読む

『今昔物語集4 本朝部』(永積安明・池上洵一訳)
今週のカルテ
ジャンル説話
時代 ・ 舞台平安末期の日本
読後に一言勝手ながら、“3週連続「今昔物語集」を読む“シリーズの第二弾スタートです。
効用「安倍晴明、忠行に随い道を習う語」(24-16)など、陰陽師絡みの話も、非常におもしろい物語です。
印象深い一節

名言
やい、貴様、よく聞け。あの女はな、鹿の骨の大きなのなどを膝にあてて、あの細い腕で、まるで枯れ木でも折るように、いくらでも折り砕く者だぞ(23-24)
類書本書にも登場する平将門公の軍記物語『将門記(全2巻)』(東洋文庫280、291)
本書の主な舞台・京都の民俗『改訂 京都民俗志』(東洋文庫129)
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