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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 120

『今昔物語集6 本朝部』(永積安明・池上洵一訳)

2015/06/25
アイコン画像    “スケベ”こそ、最大の悪行!?
3週連続「今昔物語集」Ⅱ~その3

 「治安が悪化した」という声をよく耳にしますが、ハッキリいいますけど、これ、大嘘です。殺人事件の件数は、1954年の3081件をピークに徐々に下がり初め、2013年には1000件を切りました。刑法犯全体の認知件数も、毎年下がり続けているのです。ね? 数字が「治安は悪化していない」ことを如実に示しているのです。

 ではなぜ「悪化した」と感じるのか。それはテレビやネットに、そうしたニュースが氾濫しているからではないでしょうか? 「治安が悪化した」という雰囲気に呑まれ、気づいたら、『1984年』(ジョージ・オーウェル著)のような超管理社会になっていたりして……。

 治安だけでいうなら、『今昔物語集』が描かれた平安末期のほうが、ひどい有様です。だって末法の世ですからね。実際、『今昔物語集』でもわざわざ、「悪行」という巻を設けているくらいですから。盗人に殺し……平安の時代は、犯罪が「日常」だったのです。

 と、悪行三昧におののきながら『今昔物語集6 本朝部』を捲っていたのですが、「蛇、女の陰(つび)を見て欲を起こし、穴より出て刀に当たり死ぬ語(こと)」(29-39)で、固まりました……。若い女が、土塀に向かって小便をしています。が、4時間経ってもしゃがんだまま。なぜか。


 〈(土塀の穴に潜んでいた)蛇が、小便している女の前を見て欲情を起こし、女の正気を失わせたから立てない〉


 これが答え。何が「悪行」かって? そんなところで小便するなってことだそうです。

 続いて「平定文(たいらのさだぶみ)、本院の侍従に仮借(けそう)する語」(30-1)。これは「雑事」収録なのですが、現在社会では悪行?

 この定文、オンナ好きなんですね。しかもイケメンで優雅。百発百中でオンナを落としていたのですが、どうしてもひとり、ものにならない。さあ定文、どうしたか。オンナの嫌なところを知れば、嫌いになるはずだと、あろうことか、〈人目のない所で走り寄って便器を奪った〉。で、検分するわけです、中身を。バカですねぇ。

 オンナは一枚上手でした。定文がそうすることを見越して、なんとウ●コをお香で製作していたのでした!


 〈この世の常人ではない〉


 定文はオンナの気の回り方に驚き、一層、恋い焦がれるうちに病気になり、ついには死んでしまいます。

 みなさんおわかりですね? 最大の悪行とは、“度を過ぎたスケベ”ということなのです。


本を読む

『今昔物語集6 本朝部』(永積安明・池上洵一訳)
今週のカルテ
ジャンル説話
時代 ・ 舞台平安末期の日本
読後に一言「蛇、僧の昼寝するまら(まら)を見、婬を呑み受けて死ぬ語」(29-40)も衝撃的なスケベ話ですが、えー、紹介は自粛です。どうぞ、ご自身でお楽しみください。で、これにて、日本のエピソードを集めた「本朝部」は読了です。
効用本書には、芥川龍之介の『羅生門』の元になった話(29-18)や『竹取物語』の類似譚(31-33)など、有名な話が多く収録されています。
印象深い一節

名言
されば、女にはあまり熱をあげるものではない(30-1)
類書羅生門の鬼退治などを分析する『羅生門の鬼』(東洋文庫269)
平安時代の文学に迫る『国文学全史 1 平安朝篇』(東洋文庫198)
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