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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 47

『魯迅 その文学と革命』(丸山昇著)

2015/07/23
アイコン画像    “反省=自己批判”を生き方の軸にした
作家・魯迅の「無限の歩み」

 「あなたの日本語は壊れている」と、日々、妻から指摘されるのですが、「積極的平和主義」なんていう意図的な改変じゃありません。もっと単純な情けない言い間違いです。当然、反省の弁を口にするわけですが、またしても妻から「口だけの反省だ」と責められます。

 反省すべきは反省したじゃないかと逆ギレしながら、クールダウンの意味で本書を開いたのですが、ここでもガツンとやられてしまいました。

 本書『魯迅 その文学と革命』は、中国文学者の丸山昇氏による魯迅伝です。丸山氏によれば、魯迅(1881~1936)は、〈自己の《寂寞》《悲哀》《絶望》について〉向き合っていた作家です。なぜか、というのが丸山氏の問いで、本書はその考察です。

 日本への留学経験を持つ魯迅は、帰国後、〈文学革命期に「狂人日記」「阿Q正伝」を書いて中国近代文学の出発点を築いた〉(ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」)作家です。魯迅は、辛亥革命に期待するのですが、変わらない社会に絶望し、悲哀を感じ、寂寞――ものさびしくなった、と筆者は考えるわけです。


 〈(寂寞が)大きな毒蛇のように、私の魂にまといついた〉


 社会に希望を見いだせない中で、どうするか。これは私の悩みとも重なるのですが、魯迅はひとつの答えを用意していました。丸山氏が、魯迅を読み解くキーとして引用する、処女小説集の自序にこうあります。


 〈この経験が私を反省させ、自分の姿を見せてくれた〉


 魯迅は声を挙げる。だが誰も反応してくれない。〈この経験〉とは、著者流に言えば、こうした革命の失敗を指しているのでしょう。そこには悲哀と寂寞しかありません。しかしだからこそ、〈自分の姿を見せてくれた〉と魯迅は書くのです。自分は、〈英雄ではけっしてない〉と。

 これ、非常に大きな〈反省〉です。いわば魯迅は、自分の限界を知ったということです。限界を知った上で、だからこそ、文学に没入した(私の口先だけの反省と大違いです)。反省の先に魯迅の文学はあるのです。

 丸山氏は、魯迅をこう評価します。


 〈現実には手がかりを失って絶望し、寂寞を嘆き、動揺もする魯迅が、結局はその一点(革命)に向かって動かされて行く全過程そのもの、いわば革命に自分を近づけて行く無限の歩みのありかたそのものに《革命人》を見るわけである〉


 真剣な反省は、人を前に進めるのです。



本を読む

『魯迅 その文学と革命』(丸山昇著)
今週のカルテ
ジャンル伝記/評論
刊行年 ・ 舞台1965年/中国
読後に一言悲観するな、ということなのだと思います。
効用言葉ひとつひとつが重い評伝です。
印象深い一節

名言
暗黒だからこそ、行く道がないからこそ、革命が必要なのではないのか(一『新青年』)
類書魯迅の詩集『魯迅「野草」全釈』(東洋文庫541)
魯迅による評論『中国小説史略(全2巻)』(東洋文庫618、619)
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