1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
“強い怒り”が国を変える 「義和団事件」の口承物語 |
2015年夏。国会議事堂を囲んだデモの声は、来たる革命の叫びか、それとも時代のあだ花に終わるのか。
いずれにせよ、この国には、本当の意味での「革命」が起きたことがないという事実に気づき、私は愕然としました。大化の改新も、足利尊氏も、明治維新も、いわば支配階級による政権交代です。名もなき人々が立ち上がり、この国をひっくり返したことはないのです。それは幸せなことでしょうか? それとも「諦め」が当たり前になっているのでしょうか。
隣国・中国は、いうなれば「革命」の歴史です。中でも義和団の乱(義和団事件)は、〈日清戦争後、義和団が生活に苦しむ農民を集めて起こした排外運動〉(ジャパンナレッジ「デジタル大辞泉」)であり、成功しなかったとはいえ、被支配層による革命の試みでした。
本書『義和団民話集』は、戦後に編まれた口承文学集です。数十年前の出来事を、物語として口伝えていたものですが、その主体は義和団にシンパシーを持っている、あるいは実際に参加した人々です。彼らが、被支配層による革命をどう捉えていたか、それがわかるのです。
彼らはこの時期――1900年前後の自分の国(清朝)をどう見ていたか。
〈きょうびのお上ときたら、洋人の味方をしやがって、あちらの言うことなら、なんでもハイハイと聞くしまつさ〉
自分たちではなく、欧米の言うことをきいている、という不満があったんですね。対米追従ならぬ、対西洋追従というわけです。
もっとも興味深かったのは、「子ウシ、村びとの難を救う」。まるでグリム童話、といった趣です。
ある農村の4人家族。西洋人とその手先が農村に攻め込んできたことで、生活は一変します。父は苦役に送られ、母は蹴り殺され、娘は蹂躙されての自殺。残った10歳ぐらいの息子は、ひとり嘆き悲しみます。すると、西洋人に連れ去られ食べられてしまった牛が夢枕に立ち、自分の骨と皮を掘り出せという。掘り出した骨を焼くと銀塊になり、皮は金塊になるという、まさにお伽噺。銀塊も金塊も、西洋人に奪われてしまうのですが、最後は金塊が爆発し……というまさかのオチ。
「願望」です。しかしここには「踏みつけられてなるものか」という強い怒りがあります。怒りを忘れないことで、かの国は革命を起こし続けてきたのです。
ジャンル | 文学 |
---|---|
刊行年 ・ 舞台 | 1960年前後・中国 |
読後に一言 | 忘れる。諦める。こうした姿勢は生きる知恵かもしれませんが、そうしてはいけないことも、中にはあるのでしょう。 |
効用 | 決して「事実」が描かれているわけではありませんが、ここにある心情は「真実」なのでしょう。 |
印象深い一節 ・ 名言 | 洋人だのみの洋教かぶれ/恥を恥とも思わない/それでもおまえは中国人か/洋人の子になつちまえ |
類書 | 秦~清の民衆の歴史『中国民衆叛乱史(全4巻)』(東洋文庫336ほか) 義和団に攻められた側の記録『北京籠城・北京籠城日記』(東洋文庫53) |
ジャパンナレッジは約1900冊以上(総額850万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。
(2024年5月時点)