1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
詰碁の名著を解かずに読む 囲碁は人生&世界の縮図だった!? |
〈禍福(かふく)は糾(あざな)える縄の如し〉
幸福と不幸は、より合わせた縄のように交互にやってくる。幸せがあれば不幸もあり、その逆もまたしかり、ということです。『史記』に出てくる言葉ですが、わたしはある俳優の取材中にこの言葉を知りました。その方は、大きな浮き沈みを経験された俳優で、沈んだ時に、この言葉のおかげで挫けなかったというんですね。以来、わたしも呪文のようにこの言葉を唱えているのですが、本書を読んでいたら、もっと大きい真理なんじゃないかと思ったのです。
『官子譜(かんずふ)』は詰碁を中心とした手筋の書で、明の過百齢が著し、清の陶式玉が編注を加えて完成させたものです。まあ……囲碁はからっきしなので、正直、白と黒の石の図は、モダンアートのようにしか見えないのですが(なのに書評していいのかという問題はありますが)、こんな一節を見つけました。
〈そもそも碁は、小道ではあるが、天地の理でここに寓されていないものはない。強と弱をそれぞれ用いるのは、寒暑の往来と同一であり、動と静がこもごも存するのは、陰陽(いんよう)の循環と同一であり……〉
陰陽の循環と同一とは、大きな話です。「陰陽」をジャパンナレッジで引いてみると……。
〈中国古代の思想で、天地間にあり、互いに対立し依存し合いながら万物を形成している陰・陽2種の気。日・春・南・男などは陽、月・秋・北・女などは陰にあたる〉(「デジタル大辞泉」)
陰陽はまさに、万物の根本なのです。
〈禍福は糾える縄の如し〉に話を戻すと、この考え方に従えば、幸福が「陽」ならば、不幸は「陰」でしょう。つまり、幸せは常に不幸とワンパックなのです。いや、こう言ったほうが正確でしょう。あるひとつの事象を、ある面から見れば幸福となり、またある面からみれば不幸となる。理髪店のくるくる回る看板のように、分かちがたく禍福は一体化しながら回っていたのです。
発展させて考えれば、囲碁は人生、いや世界の縮図ということになります。
〈人生の荊棘、盛衰のはかなくうつろい、世情のたちまちにあらたまることなど、およそ天下のことで、碁の様相と異なるものがあろうか〉
読んでも読んでもわたしに詰碁はわかりませでしたが、ぼんやりとですがひとつの真理が見えてきました。
ジャンル | 趣味 |
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成立した年代 ・ 舞台 | 1600年代後半の中国(清) |
読後に一言 | 囲碁、覚えたいんですけどねぇ。遠い先のことのようです。 |
効用 | 中国の詰碁の二大名著のひとつと言われています。 1478題を収めており、囲碁ファン垂涎の書でしょう。 |
印象深い一節 ・ 名言 | 芸は、そこに道をこそ包摂しており、そしてその道を動かすものは精神である。(「叙」) |
類書 | 中国の詰碁の二大名著の残るひとつ『玄玄碁経集(全2巻)』(東洋文庫387、390) 日本の詰碁の名著『囲碁発陽論』(東洋文庫412) |
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