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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

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『川渡甚太夫一代記 北前船頭の幕末自叙伝』(師岡佑行編注、師岡笑子訳)

2016/01/21
アイコン画像    これって幕末にいた高田純次!?
北前船頭の“とんでも人生”

 日本海沿岸を往来した北前船の船頭が情感ゆたかに書きつづった自叙伝。というジャパンナレッジの紹介文を読んで、『ONE PIECE』(尾田栄一郎)好きの私は、大冒険譚を期待して、本書『川渡甚太夫一代記』手に取ったのですが、いい意味で期待を裏切られました。川渡甚太夫(かわとじんだい)という幕末に生きた男、ルフィというより、あえて喩えるなら高田純次のような男なのです(余談ですが、この回の公開日1月21日は高田純次氏の69歳の誕生日でした!)。

 実は年明け1発目に読んだ本が『高田純次のチンケな自伝』(産経新聞出版)でして、氏の“とんでも人生”を要約すると、大学受験失敗→デザイン学校→劇団研究生→サラリーマン(宝石デザイナー)→貧乏劇団員→「5時から男」……と波瀾万丈。ですが、川渡甚太夫も負けません。農家の生まれなのですが、漁業→金融業→ウナギの卸売り→ウナギ漁→北前船の船頭→難破→飴の行商……という、なんともまあ山あり谷ありの一生なのです。

 で、本書はといいますと、その甚太夫が航海の合間に記した自伝というわけです(原文だけでなく、現代語訳も並記されていますのでとても読みやすい!)。

 甚太夫はいかに生きたのか。高田純次氏なら「適当」というところでしょうが、甚太夫はこう記します。


 〈それにしても、人間一代わずか六十年の常命と思えば、諸国を廻り、神社仏閣を拝礼し、名所旧蹟を見物したのだから未来永劫の土産にもなるかと思う(現代語訳)〉


 もちろん、ウナギの卸売りも北前船も金儲けが目的のひとつです。しかし根底にあるのは、面白いことをたくさん経験したい、という欲求なんですね。で、その経験のひとつ、芸者遊びのくだりには笑ってしまいました(ちなみに、甚太夫、遊女との間に一子もうけています)。


 〈……銘酒銘魚を取り寄せて。うたへよ。舞よ。中居ハ。つげよのめよ。さわげよ。一寸先ハ。やみの夜と。其身ハ。女郎の。ひざ枕。白川夜船と。大いびき。(中略)女郎と。ふたりの。とこ入ハ……(以下自粛)〉


 甚太夫いわく、女郎との関係は……。


 〈だますのでも。だまされるのでも。なひ。たがひに。いれたり。いれられたり……(以下自粛)〉


 ちなみに高田純次氏の座右の銘は、〈コンサートよりインサート〉(『高田純次のチンケな自伝』)。

 えー、新年早々お後がよろしいようで(苦笑)。



本を読む

『川渡甚太夫一代記 北前船頭の幕末自叙伝』(師岡佑行編注、師岡笑子訳)
今週のカルテ
ジャンル伝記/日記
時代 ・ 舞台幕末の江戸
読後に一言甚太夫は何度も破産しますが、それでも立ち直ります。「やり直し」は何度でもきくんですねぇ。
効用元気が出ます、確実に。
印象深い一節

名言
夏の夜の夢ばかりなる娑婆に来て/帰るみやげになにを持行く(巻三)
類書同時代の商人の紀行&自伝『秋山記行・夜職草』(東洋文庫186)
同時代の奇僧の自伝『金谷上人行状記』(東洋文庫37)
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