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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

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『清朝史通論』(内藤湖南著、井上裕正解説)

2016/01/28
アイコン画像    中国が利己的な理由は歴史にあり!?
内藤湖南による思わず頷く中国論

 下の記述から、内藤湖南(1866~1934)について書かれた正しいものを選べ。


(1)「大阪朝日新聞」「万朝報」「台湾日報」などの記者として活躍した。

(2)京都帝国大学教授として、日本の新しい中国研究の開創者となった。

(3)著書に「卑弥呼考」「日本文化史研究」などがあり、博学の上に多才で詩文に長じ、書をよくした。


 とセンター試験風に書き出して見ましたが、答えはわかりましたか? 実は、全部正解です。


 明治時代は、現在の反知性主義と異なり、“知性”が国を動かそうとした時代だったと考えていますが、内藤湖南は明治知識人を代表するひとりです。大正時代の講演をもとに、没後に刊行された本書『清朝史通論』は、(2)の業績。

 中国研究の泰斗ですからね。どんな捉え方をしているのか興味深く読み進みましたが、中国人観光客の爆買いも、南沙諸島問題も、すべて片付けてしまうような記述を見つけました。


 〈支那(中国)は御承知の通り、自尊自大の国であつて、自国を中華又は中国と称し、如何なる国に対しても他の国は皆蛮夷戎狄と呼び、自分の国だけは中国、中国の人間は本当の人間、外の国の人間は蛮夷で、禽獣と相距ること遠からざるものゝ如く考へて居つた。それ故自分の国を国と考へて居らぬ〉


 何と、「中国」は“国”ではないんですね。内藤湖南によれば、中国人は、〈天の下にある土地は皆支那である〉と考えているそうです。で、自分たちは天下の真ん中にあり、〈外の国は其の裾にひつ附いて居る〉と思っている。

 これは今に通ずる非常に鋭い分析で、つまり中国に“外部”がないということです。だからきっと、南沙諸島でぎゃあぎゃあ言われる理由がわからないのです。爆買いもそう。爆買いとセットでマナーの悪さが喧伝されますが、そもそも自分たちが中心かつ上位なのですから、周辺かつ下位の人々に気を遣う必要はありません。何より彼らは、日本人のような「旅の恥はかき捨て」ではなく、いつものように振る舞っているだけなのですから。「郷に入っては郷に従え」とは、“外部”があって初めて成立する考え方なのです。

 文化はそれぞれです。そういう文化だと納得すれば、うまくやっていく術も見つけ出せるかもしれません。

本を読む

『清朝史通論』(内藤湖南著、井上裕正解説)
今週のカルテ
ジャンル歴史
刊行年 ・ 舞台1944年/中国
読後に一言元になったのは大正時代の講演ですが、その切り口は古びていません。
効用貿易や経済からの歴史の視点も新鮮です。
印象深い一節

名言
故に今日の支那の状態は、是は大勢の推移、自然の成行であつて、今の所官軍が勝たうが革命軍が敗けようが、それで大局が変ずるものではない。
類書内藤湖南の中国史観『支那史学史(全2巻)』(東洋文庫557、559)
清の風俗や制度『清俗紀聞(全2巻)』(東洋文庫67、70)
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