1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
宣教師が見た戦国時代の日本とは? 文化も民族も多様だったニッポン |
昨年末、NHKの『教科書が変わる!? 日本人のルーツをさぐる旅』を見ていて、最近のルーツ研究が進んでいることに驚きました。国立科学博物館の篠田謙一氏が、ミトコンドリアDNAの分析から、日本人の先祖がどこから来たか解説していたのですが、単純化して言えば、日本は「世界各地から寄り集まった多様な先祖」によって成り立っているということです。“単一民族”ではなく、世界でも稀な“混血民族”だったということです。
という前提で、信長時代に日本にやってきた(第一次巡察)宣教師ヴァリニャーノ(一般的には「バリニャーノ」)の『日本巡察記』を紐解いてみます。氏は日本を3回訪れたイエズス会司祭です。氏は、天正遣欧少年使節の派遣や、活版印刷をもたらすなど、日本にも影響を与えた人物ですが、注目すべきは、〈日本の文化,習俗を尊重するように布教方針をあらためた〉(ジャパンナレッジ「日本人名大辞典」)ことです。本書はまさに、〈日本の文化,習俗〉の観察・分析の書なのです。
では、氏は日本人をどう見ていたのでしょうか。
氏の分析を簡単にまとめると、その特徴は、(1)礼儀正しい、(2)理解力がある、(3)アジアの中でも貧しい、(4)面目と名誉を重んじる、(5)忍耐強い、(6)建前主義の6つ。
そしてこう断言するのです。
〈日本人は、他のすべての国民とは、はなはだしく異なった儀礼や風習を有しており、まるで他のいずれの国民とも、いかにしたら順応しないかを故意に研究したかと思われるばかりである〉
不思議なもので、決してヴァリニャーノは褒めていないのですが、「変わっている」と言われると喜んでしまう傾向が日本人にはあります。で、日本人は特殊な民族だ→選ばれた民族だ……とおかしな方向に持って行かれてしまう。そもそも、私たちは「世界各地から寄り集まった」のですから、民族としての特殊性はありません。いわば私たちは、“辺境”という地理的特性によって、〈はなはだしく異なった儀礼や風習〉を生み出してしまったのではないでしょうか。
実際、ヴァリニャーノは日本ならではの風習に、〈口にするに堪えない〉と嫌悪を露わにします。だからはっきり書かないのですが、〈色欲上の罪〉〈若衆〉〈僧侶〉と自らヒントを列挙します。おわかりですね? ここでは、〈多様な〉という言葉で括りたいと思います。
ジャンル | 宗教/伝記 |
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時代 ・ 舞台 | 16世紀後半の日本 |
読後に一言 | 松田毅一氏によるヴァリニャーノの伝記も読み応えがあります。 |
効用 | 宣教師に語らせると、釈迦も形無しです。彼らの異教徒へのまなざしがわかるのも、本書の利点です。 |
印象深い一節 ・ 名言 | 釈迦は、野心が強く、賢明で邪悪な哲学的な土民である。 |
類書 | 日本にキリスト教を伝えたザビエルの手紙『聖フランシスコ・ザビエル全書簡(全4巻)』(東洋文庫579ほか) 宣教師ルイス・フロイスが見た日本『日本史(全5巻)』(東洋文庫4ほか) |
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(2024年5月時点)