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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと約700冊! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『醒睡笑 戦国の笑話』(安楽庵策伝著、鈴木棠三訳)

2010/12/24
   眠気も覚める笑い? 江戸初期成立の「笑い話集成」の中に、日本人の笑いの源を発見。

 6月から地味に連載してきたこのコラムも、2010年はこれでひとまずおしまい。2011年を心地よく迎えるためにも、ココロ弾むような話題で締めましょう。


 ということでテーマは“笑”。正月はめでたく、笑う門には福来てほしいという単純すぎる発想だが、試しにジャパンナレッジの「日本国語大辞典」個別検索で“笑”を「見出し・部分一致」で調べてみた。ヒット数は568! ちなみに“泣”で同様の検索をしてみたら391件だったから、日本人は涙よりも笑顔を大切にしてきた?

 で、「日国」の初出用例を見ながら、1つ1つ言葉を読んでいったら、こんな単語を見つけた。


  【笑栄】(えみさかゆ)

  【笑酒】(えぐし)


 どちらも『古事記』(712年)からの用例で、“笑”の用例としては最古。【笑栄】は、〈満面に笑みをたたえる。笑って明るい顔色になる〉、【笑酒】は、〈飲めば心が楽しくなり、顔がにこにことほころびてくるような酒〉、だそうだ。どうです? 何か字面だけ見ていても、ハッピーな心持ちになる言葉じゃありませんか? こんな言葉を駆使する8世紀の彼らに、敬意を表したい。


 では、東洋文庫で“笑”といえば? そう、江戸初期に成立した『醒睡笑』である。


 〈前代までの笑話を集成し、後世の噺本や落語に影響を与えた点で、質量ともにすぐれた噺本の始祖である〉(ジャパンナレッジ「国史大辞典」)


 という評価の通り、日本初の本格的な「笑い話集成」である。成立年とされる元和9(1623)年は、家光が三代将軍となった年。関ヶ原や大坂の陣以後は、「かぶき者」(異様な風体をして市井を横行した無頼の徒/同前)が跋扈(ばっこ)したが、徐々に行動の意味も薄れてきた頃だ。つまり社会は安定へと向かっていた。だからこそ、余裕を持って“笑”に向き合えたのではないか。翻って現代社会は、【言笑】(げんしょう、笑いながら打ち解けて話すこと。初出:「懐風藻」751年)しあえる社会か。そんなことをつらつら考えながらの『醒睡笑』である。

 では、この中から問題。なぜ「子どもは風の子」なのでしょうか?


 〈ふうふの間にできた子だからである〉


 夫婦がふうふういってつくるから……。


 他にも連歌師ネタや謡・舞などの芸能話、知的滑稽話など、本書のレベルはこんなもんじゃあございません。下ネタに笑ってしまう私が悪いのです。

今週のカルテ

ジャンル文学/説話
時代 ・ 舞台室町~江戸時代初期
読後に一言怒り皺より、笑い皺。
効用笑いの中に、気持ちよく浸っていられます。
印象深い一節

名言
某(それがし)小僧の時より、耳にふれておもしろくをかしかりつる事を、反古の端にとめ書きたり(自序/原文)
類書ほぼ同時期の笑い話集『昨日は今日の物語』(東洋文庫102)
落語の落(さげ)を収集した『新編落語の落(全2巻)』(東洋文庫611、615)
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