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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

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『人倫訓蒙図彙』(朝倉治彦校注)

2016/03/17
アイコン画像    江戸期の就活マニュアル!?
500超の職業を紹介する絵入り事典

 私が学生の頃は「就活」なんていう言い方はしませんでした。調べてみると、〈このように略されるようになったのは2000年前後だといわれている〉(ジャパンナレッジ「現代用語の基礎知識 2015」)のだそうです。何でも今年は去年より2か月早まったとかで、就活生の皆さんは今頃きっと、エントリーシートをせっせと送っているのでしょう。就職情報サイト「マイナビ」によれば、「平均して50社以上の企業」にエントリーするそうですから、それだけでも大変です。

 というより就活生の皆さんは、いったいどうやって会社を選んでいるのでしょうか。

 本書『人倫訓蒙図彙(じんりんきんもうずい)』は、〈五百以上の職業について、職能・由来などを挿絵入りで解説した事典〉(同「日本国語大辞典」)です。江戸時代に「就活」があるならば、その虎の巻にピッタリな本といえるでしょう。


 〈【呉服や】応神天皇の御時、唐土(もろこし)より呉服(くれは)、空織(あやは)といふ兄弟の女、わたりて絹を織れり。此名によそへて上品(じやうぼん)の着物(きるもの)を呉服とはいふ也〉

 〈【哥人(かじん)】和哥は此国の風俗として、神代(かみよ)よりおこれり。仮名の三十一字をつらねて、仏神の感応にもあづかり、目にみえぬ鬼をもかたぶくる事、哥に過たるものなし〉


 と、こんな具合に職業の由来から解き明かし、〈所作や道具を描く挿絵と併せて解説〉(同「国史大辞典」)しているのです。紹介されている中には、巡礼に行ってもいないのに、その格好で家々を回って喜捨を求める【似瀬順礼(ニセ巡礼)】などアヤシイ職業も紹介されていて、その職業の豊富さに驚かされます。

 本書に描かれているのは今から約300年前、元禄期の江戸ですが、私は職業の多様さに目を奪われました。はたして現代日本は、これほど多様でしょうか?

 日本の就業者数は、6399万人です(全人口の約50%)。そのうち雇用者数――サラリーマンの数は5712万人です(総務省「労働力調査(基本集計)平成28年1月分」)。雇用者数は正規・非正規ひっくるめた数字ですが、ともあれ「サラリーマン」が89%を占めているのです!

 学校を出てサラリーマンへ――当たり前なのかもしれませんが、年齢制限を外すとか、もっと回り道や寄り道が許されるような就職システムになりませんかね。私には何だか、江戸のほうが自由に見えてきました。



本を読む

『人倫訓蒙図彙』(朝倉治彦校注)
今週のカルテ
ジャンル事典/風俗
時代 ・ 舞台江戸時代の日本
読後に一言自身がサラリーマンをやったことがないので、そんなふうに思ってしまうのかもしれませんが。
効用本書は、〈京都を中心に当時の風俗,生活を知るための貴重な資料〉(「世界大百科事典」)です。
印象深い一節

名言
上貴(かみたつと)き公卿より、庶人の賎(いやし)きにいたるまでの、其所作を、くわしく家々に尋ねて、来由(らいゆう)をたゞし、或は唐大和(からやまと)の書にあるを考へあつめて、人倫訓蒙図彙と名付る物ならし。(「巻一」)
類書江戸時代の食の事典『本朝食鑑(全5巻)』(東洋文庫296ほか)
江戸時代の図入り百科事典『和漢三才図会(全18巻)』(東洋文庫447ほか)
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