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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 537|546

『本朝度量権衡攷1、2』(狩谷棭斎著、冨谷至校注)

2016/05/19
アイコン画像    空疎空論に溺れるな!?
江戸の考証学者のサイズ・はかり方考

 恥ずかしいことに、最初、タイトルを読めませんでした。江戸時代の考証学者・狩谷棭斎(かりや・えきさい)が著した『本朝度量権衡攷』です。「ほんちょうどりょうけんこうこう」と読むのだそうです。

 で、紐解いてさらに驚きました。


 〈皇国にて尺度(ものさし)を以って諸物を度(はか)ることは「西土」の制を学びしにて、上古はさること無かりき。ただ長ぎ物をば手にてつかみて、四指の広さの程を度り、是れを「ツカ」と云ひ、〉


 と始まり、文章の途中に挟み込むように、ここから自らの手による膨大な注が続くのです(東洋文庫では21行!)。〈中国および日本の度量衡の起源と沿革および度量衡各器の値を考証した、江戸時代最大の研究書〉(ジャパンナレッジ「国史大辞典」)と評価されているのも当然のことだと首肯したのでした。

 ジャパンナレッジで、著者の狩谷棭斎を検索してみると、すべてのサイトで「考証学者」という説明がなされます。はて、考証学とはいつ頃始まったのかしらんと調べてみると、〈中国,清代の学界の主流をなした学問の方法〉で、〈宋代の思弁哲学である朱子学や,明代の観念論哲学である陽明学とはおよそ対照的に,広く資料を収集し,厳密な証拠にもとづいて実証的に学問を研究しようとするもの〉(同「世界大百科事典」)とあります。

 宋代、明代は観念を重視しすぎていた。ゆえに、漢族の国家・明は、満州族の清に滅ぼされてしまった。アイデンティティ・クライシスです。だったら漢代の基本に戻ろう。そこから現実を直視し直そう。と、考証学が広まっていった。と、私はざっくりと捉えました。で、こうしたスタンスが日本にも伝わり、考証学が花開いていくわけですが、その中心のひとりが狩谷棭斎なのです。

 さて本書ですが、日本にとどまらず、中国のサイズ、はかり方を徹底的に詳述します。この執着心というか、執念というか、私は好きです。狩谷棭斎はどうやら「制度」を愛しているんですね。彼は言います。


 〈律の高低に依りて、国の興亡すると云ふは、儒者の常言なれども、国の興亡は政の善悪にありて、律の高低にあづかるべきに非ず〉


 国がダメになるのは律=法の問題じゃない。施政者の善悪なんだ、と。法律を変えたがっている政治家に聞かせてあげたい一節ですね。



本を読む

『本朝度量権衡攷1、2』(狩谷棭斎著、冨谷至校注)
今週のカルテ
ジャンル科学/歴史
成立した時代江戸時代後期
読後に一言考証学が〝危機感〟から生まれたとは知りませんでした。
効用「度量衡」について書かれた決定版です。
印象深い一節

名言
皇国にて量を用ひしこと、古へに見ゆること無し(「本朝量攷」)
類書考証学の対象となった『四書五経』(東洋文庫44)
有職故実の古典『貞丈雑記(全4巻)』(東洋文庫444ほか)
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