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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと850点余! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『山東民話集 中国の口承文芸3』(飯倉照平・鈴木健之編訳)

2016/06/23
   「集団いじめ」に潜む理屈とは――。
都知事問題を民話を通して考える

 小麦、大麦、ソバという名の腹違いの姉妹がいました。大麦とソバは後妻の子です。

 これ、『山東民話集』収録の「三人姉妹」の設定なのですが、もう想像がつきますね。継母が小麦をいじめぬくのです。いじめは徹底しています。


 〈あの子をかばうものがいたら、わたしがただではおかないよ〉


 この台詞、ゾッとしますねぇ。今この瞬間にも各地で口にされていそうな台詞です。

 この「いじめ」というのは民話のひとつの形で、本書にも「次郎の物語」や「鳥になった嫁」など、イジメがモチーフになっている作品が数多く収録されています。民話では、いじめの結末は無残です。

 「三人姉妹」では、小麦、大麦、ソバの由来に繋がっていきます。寒い時期に外に放り出されていた小麦だけは、実を粉にひくと香ばしくておいしいものとなり、つらさを味わうことがなかった大麦とソバは、実を粉にひくと黒くてまずい代物……というオチです。

 そもそも「いじめ」は、〈集団関係の中で立場や力の弱い者をターゲットに、精神的・身体的な攻撃を執拗に加えること〉(ジャパンナレッジ「イミダス 2016」)です。「三人姉妹」でいうと、継母の脅しが集団いじめへといざなっているわけですが、でもこれって、民話の中だけの話でしょうか?

 こんな話題を出すと、私がいじめられるかもしれませんが、東京都知事をめぐる一連の報道、そして反応は、私には「いじめ」にしか見えません。集団リンチです。彼は国際社会に嘘をついたわけでもなければ、口利きで賄賂を懐に入れたわけでもありません。ただセコかっただけ。しかし、氏の〈集団関係の中で立場や力〉が弱まったのをいいことに、人格攻撃を行なう。

 私は最近の(例の不倫騒動もそうですが)「集団いじめ」に恐怖を感じます。もしかすると戦前の「非国民」への吊し上げもこんな感じだったのかもしれません。

 『山東民話集』の中に面白い言葉を見つけました。


 〈腹が一杯なら蜜だって甘くはないし、ひもじければ糠だって蜜のような味がするのさ〉(「粟粥」)


 状態ひとつで感覚はかわる、と民話は伝えています。だとすれば、気づかずにいじめている側にこそ、大きな問題が潜んでいるといえるのではないでしょうか。



今週のカルテ

ジャンル説話
成立した時代

舞台
1940~50年代/中国
読後に一言人間を最も多く殺している生き物は、一説には「蚊」だそうですが、蚊が生き残った理由のわかる民話「人を食う蚊」はおすすめです。
効用仙人の話があるかと思えば、アメリカ人の出てくる新しい話もあり、バラエティに富んでいます。
印象深い一節

名言
この世に終わりにならなかった宴会はないし、この地上に引きさかれなかった相思相愛の夫婦はいない(「赤い泉の物語」)
類書明代の怪異小説集『剪燈新話』(東洋文庫48)
中国西南山地に住む少数民族の民話『苗族民話集』(東洋文庫260)
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