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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 193

『朝鮮歳時記』(洪錫謨ほか著、姜在彦訳注)

2011/01/13
アイコン画像    中国、朝鮮、日本が、文化・風習的に繋がっていたことがよくわかる、近代以前の朝鮮の歳時記。

 「上元」という言い方が使われなくなって久しい。

 かつては「上元」(旧暦1月15日)、「中元」(旧暦7月15日)、「下元」(旧暦10月15日)をあわせて「三元」といった。日本には15世紀以降に中国から入ってきた言葉で、上元は小正月、中元はお盆と結びついて定着し、今では「お中元」という言葉に名残をとどめる。

 こう書くとさも教養人のようであるが、さにあらず。私もたった今、知りました。

 実は、朝鮮半島のお正月の風習はどんなのだろうと、近代以前の風俗を綴った『朝鮮歳時記』を眺めていたら、「上元」という言葉にぶつかり、何だろうとジャパンナレッジで検索して見たら、かのような事実を知ったという次第。本書によると、1月15日は、ひとつの節目だったようで、特に厄払いや願掛けは、元日ではなくこの日に集中している。


 〈上元の日の朝、清酒の冷いものを一盃飲めば、耳が明るくなる〉

 〈上元が過ぎれば、紙鳶(たこ)揚げはしない〉(厄除けのため、上元の夜に糸を切って空に放す)

 〈上元の夜に橋を十二回渡れば、十二ヵ月間の厄除けになる〉


 これらはほんの一例で、「上元」の日に今年一年の願掛けと厄除けをやってしまう、という感じなのだ。

 私が特に面白いと思ったのは、「赤豆粥」の風習だ。


 〈正月十五日の前日、赤い小豆の粥をつくって食べる〉


 江戸時代に書かれた『東都歳事記』(東洋文庫159)にも1月15日の欄に、〈上元御祝儀、貴賎今朝小豆粥を食す〉とある。明治時代に書かれた『東京年中行事1』(東洋文庫106)にいわく。


 〈古来この日を上元といって、今なお赤小豆粥に餅を入れて炊いて食する習慣がある。『枕草子』に『十五日は餅粥の節供まゐる』とあるのは即ちこれで、この日亥の刻小豆粥を煮て天狗を祭って食すれば、年中の邪気をのぞくという支那の習慣から来たもので、寛平の頃から禁中に於て行なわれたものであるらしい〉


 「上元」という言葉自体は室町以降に入ってきたものだが、「小豆粥」自体は、枕草子の頃――つまり1000年前後には日本に入っていたことになる。ということは、それから800年、1800年代までは、中国―朝鮮―日本は「小豆粥仲間」だ。

 小さな話だけど、私はちょっと嬉しかった。なので今年の1月15日は、小豆粥を食べることに決めました。

本を読む

『朝鮮歳時記』(洪錫謨ほか著、姜在彦訳注)
今週のカルテ
ジャンル風俗
時代 ・ 舞台1800年代までの朝鮮
読後に一言朝鮮との意外な共通点、意外な違いに、いちいち驚いた。
効用「人類皆兄弟」とはいわないが、少なくとも、中国、台湾、朝鮮(北朝鮮、韓国)、日本は、「兄弟だなあ」と認識する。
印象深い一節

名言
朝早く起きて、誰か人を見ればだしぬけにその名を呼ぶ。先方が返事をすればすかさず、「わが暑気を買え!」という。これを売暑という。
類書開国以前の朝鮮をフランス人宣教師がガイド『朝鮮事情 朝鮮教会史序論』(東洋文庫367)
清の時代の記録『燕京歳時記 北京年中行事記』(東洋文庫83)
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