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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 116|118

『増訂 武江年表1、2』(斎藤月岑著、金子光晴校訂)

2016/08/04
アイコン画像    八朔――8月1日は、
江戸入城記念日!

 さて問題です。旧暦8月1日は、何の日でしょう?

 答えは「八朔(はっさく)」。

 ジャパンナレッジ「デジタル大辞泉」にこうあります。


 〈陰暦の八月朔日(ついたち)のこと。また、その日に行われる行事。農家ではその年の新穀を日ごろ世話になっている人に贈って祝った。町家でもこの風を受けて互いに贈り物をし、祝賀の意を表した〉


 この八朔の習慣が、中元に繋がったという説もあるそうですが、本題はこの次のくだり。


 〈徳川家康がこの日江戸城入りをしたところから、武家の祝日となり、大名・旗本などが白帷子(かたびら)で登城し、将軍家に祝辞を述べた〉


 そう、8月1日とは「八朔」であり、徳川家康が江戸に入城したとされる日なのです。


 〈天正十八年[一五九〇]庚寅/今年八月一日、台駕(高貴な人の乗り物=家康)はじめて江戸の御城へ入らせ給へり。そのころは御城の辺(ほとり)、葦沼汐入等の地にして田畑も多からず……(中略)士民の所居を定め給ひしより、万世不易の大都会とはなれり〉


 『増訂 武江年表』は、この書き出しで始まります。著者は、斎藤月岑(げっしん、1804〜1878)。幕末から明治を生きた文人で、ジャパンナレッジには氏の手がけた「江戸名所図会」も収録されています。

 この『増訂 武江年表』のすごいところは、万事、江戸の庶民の記録だということです。例えば、1600年の項目に、関ヶ原の合戦の記載なし! 1867年の大政奉還も記載なし(月岑は同時代を生きたはずですが)。代わりに、天候に物価、火事やご開帳の記録が載せられています。そう、これは江戸の人々の生活の記録史なのです。

 で、本書のもうひとつのすごいところは、校訂と解説を詩人の金子光晴が担当していること。戦時中、反戦詩を書き続けたあの金子光晴です。氏の言。


 〈私たちが、今日猶、伝承している風俗習慣やものの考えかた、感じかたにいたるまで、日本人らしいとよばれるものは、歴史上いちばん近いつながりをもつ、江戸から直接引きついだものと見てまちがいない〉


 少なくとも、江戸という豊かな文化を有したことを、私たちは幸運だと思うべきかもしれません。



本を読む

『増訂 武江年表1、2』(斎藤月岑著、金子光晴校訂)
今週のカルテ
ジャンル風俗/記録
時代 ・ 舞台1590~1873年の江戸
読後に一言江戸好きには必携の書。
効用江戸の人々の生活が、本書から立ち上がってきます。
印象深い一節

名言
江戸を知ることが今日いかに重要であるかは、日本人がじぶんたちの来歴を知ることの重大さと繋がっている。(金子光晴「解説」)
類書月岑による江戸年中行事『東都歳事記(全3巻)』(東洋文庫159ほか)
江戸の散歩記録『江戸近郊道しるべ』(東洋文庫448)
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