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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと850点余! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『南島雑話 幕末奄美民俗誌(全2巻)』(名越左源太著、國分直一・恵良宏校注)

2016/09/15
   左遷されても大丈夫!?
流罪の薩摩藩士が残した民俗誌

 私が学生の頃、『モーニング』(講談社)誌上で人気を集めていたのは、『課長島耕作』(弘兼憲史)です。私の同級も、これに感銘を受けた連中はそのままサラリーマンとなり、組織のドロドロに過敏に反応した私は、結局、フリーランスの道を選びました。ようはいずれにせよ、漫画に影響を受けているわけで……。

 さてこのシリーズも、すでに『会長島耕作』です。隔世の感がありますが、実は島耕作、子会社への出向や左遷といった「島流し」の憂き目にあっています。

 ジャパンナレッジの「デジタル大辞泉」には、〈島流し〉の意味として、〈流罪〉のほかに、〈遠い所や不便な所へ転勤させること〉を挙げています。

 〈流罪〉はそもそも、律令時代からある刑罰で、〈死罪に次ぐ重刑〉(同「日本国語大辞典」)です。この刑罰は長らく続き、法然や日蓮などの宗教家、あるいは権力の座から追われた崇徳上皇や順徳上皇、真田昌幸、信繁親子も、関ヶ原の戦いの後、九度山に配流されました。

 中には、源頼朝や後醍醐天皇のように、流罪されたあとに再び立ち上がり、頂点に立った人物がいます(今の企業でも、島耕作同様、左遷を経て社長になった方は少なくないようです)。と考えると、島流し=人生最悪の事態に、どうふるまい、どう考えたか。これによってその後の人生が変わると言えるのかもしれません。

 例えば『南島雑話』は、幕末、奄美大島に島流しにあった名越左源太という薩摩藩士によってしたためられたものです。これがすごい本でして、島の生産、年中行事、婚礼などの儀式、動植物から子供の遊びまで、300点を超す絵図と共に事細かく記しています。民俗学の第一級資料といっていいでしょう。

 その中に、奄美の婚礼歌も収録されていました。


 〈今日のほこらしや、何よりもまさり、後も今日の如く、あらちたほれ〉


 今日の喜ばしいことは、何よりも勝る。この後も今日のようであってください。昨日でも明日でもなく、今この瞬間を〈何よりもまさり〉と思う。これ、人生の島流し時期に、最も必要な姿勢ではないかと思いました。

 名越左源太は5年ののちに許され、薩摩藩で寺社奉行などを歴任したそうです。人生は何が幸いし、何が災いするかわかりません。島流しも悪くないと思える人でありたいと、つくづく思います。



今週のカルテ

ジャンル民俗学
時代 ・ 舞台幕末の奄美大島
読後に一言本書は、〈南島研究のバイブル的文献〉(ジャパンナレッジ「国史大辞典」)と高く評価されています。
効用〈婦人月経短し〉など、本当に事細かく、島民の生活を観察しています。
印象深い一節

名言
其古は誰夫(たれそれ)と聞えし武士も、零落すれば見るかげなく、只時の幸を得て栄華を思ひ……(『南島雑話1』)
類書明治時代の沖縄調査『南嶋探験(全2巻)』(東洋文庫411、428)
遠流の地・佐渡の奉行日記『島根のすさみ』(東洋文庫226)
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