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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 437|438

『星亨とその時代 1、2』(野沢雞一編著、川崎勝・広瀬順晧校注)

2016/10/20
アイコン画像    10月20日は小選挙区制度が始まった日
星亨を通して政治について考える

 先日、現代史を勉強していた愚息が、「政党の名前は覚えなくちゃいけないの?」と聞いてきました。ようは「覚えられない」のです。情けないとばかりに愚息を睨み付けたのですが、さてはたして、例えば「生活の党と山本太郎となかまたち」と自分は答えられるかと考え込んでしまいました。そんなやりとりの後、件の党が党名を「自由党」に戻すとの報。頭を抱える愚息。「もう覚えられない」とのこと。

 なぜ現在は、少数野党乱立なのでしょうか。調べてみると、その根は、自由党党首の小沢一郎氏らが断行した「政治改革」(94年)にありそうです。選挙制度改革の慎重派を「守旧派」と蔑み、積極派を「改革派」と持ち上げ、小選挙区比例代表並立制は成立しました。当時の私は「改革」の言葉に酔いしれ、小選挙区制に未来を感じました。さて、本当にあれは「改革」だったのでしょうか。

 日本は、「政党政治」です。政党(その他の政治団体)に属していなければ比例に立候補すらできません。ジャパンナレッジで調べてみると、〈日本政党政治の原型を創出した〉(「国史大辞典」)人物が見つかりました。星亨(1850~1901)です。

 で、東洋文庫には、彼の伝記資料があります。『星亨とその時代』です。これは非常な労作で、過去帳、知人の談話、新聞記事、卒業証書から奥さんへの手紙まで、伝記とともに、ありとあらゆる星亨の資料が掲載されています。

 その中に、彼の演説もいくつか含まれているのですが、私はその内容に驚きました。見事に本質を看破しています。


 〈一国の政治が自由であれば必ず実業は盛になる、一国の政治が専制であれば、必ず実業が衰える〉


 〈我国の慣習としては町人百姓は政治に与(あずか)らず、政治は役人のすることであると云う考をして居るのが昔からの慣習になって居る〉


 政治は役人のすること――これは気になる指摘です。なぜならば先の衆院選(2014年12月14日)は、投票率52.66%(小選挙区)と史上最低を記録したからです。選挙は義務である、と主張していた星だったら、烈火の如く怒ったでしょう。

 実際星は、〈当時の小学校の儒教的「勿れ主義」教育〉(「国史大辞典」「星亨暗殺事件」の項)に警鐘を鳴らしていました。勿れ主義とは、〈禁止、抑制を加えるだけの消極的な主義〉(「日本国語大辞典」)のこと。しかし星は、この「勿れ主義」教育の否定が元で、星批判者の凶刃に倒れました。

 ちなみに本日10月20日は、初めて小選挙区で総選挙が行われた日。選挙の大切さを噛みしめることにします。



本を読む

『星亨とその時代 1、2』(野沢雞一編著、川崎勝・広瀬順晧校注)
今週のカルテ
ジャンル伝記/ジャーナリズム
時代 ・ 舞台幕末~明治時代の日本
読後に一言“〈豪胆な性格であったが,猟色には無縁であり,家庭的な幸福を守ろうとする優しい一面を持ち合わせていた〉(「世界大百科事典」)、〈敵も多かったが、家族の生活を大切にし、身分や地位で人を差別するようなことはなかった〉(「国史大辞典」)。事典にこう書かれる人物も珍しいのではないでしょうか。
効用明治時代の資料の「宝の山」です。
印象深い一節

名言
何をか党派(政党)の実力と云う。曰資材なり、曰勇気なり、曰智識なり。
類書星亨ともやりあった英国公使の伝記『パークス伝』(東洋文庫429)
同時代の東京の庶民の様子『明治東京逸聞史1、2』(東洋文庫135、142)
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