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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと850点余! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『辛亥革命見聞記』(ファルジュネル著、石川湧・石川布美訳)

2016/10/27
   辛亥革命をこの目で見た!
105年前に起こった革命の真実とは

 なぜ太平洋戦争は起こったのか。

 私は折に触れてこのことを考えます。なぜならば当時、国民の多くは開戦に熱狂したからです。歴史が繰り返さないとは限りません。結局、歴史を遡ってみるしかないのですが、その遠因のひとつは、管見では清朝だと考えます。

 列強に侵されつつある中国はどうなるのか。中国の状況は、日本にとって対岸の火事ではなく、それは日清戦争につながりました。そして中国国内では辛亥革命が起こるのです。

 『辛亥革命見聞記』は、フランスの社会学者ファルジュネルによる、現地潜入ルポです。冷静かつ的確なレポートは、2つの側面で興味深いものでした。ひとつは、中国の民衆の言葉を丁寧に拾っていること。例えば、上海のフランス領事館に勤める年老いた女中の革命に対する感想。


 〈雨乞いをなさる皇帝がもう北京にいなさらんとなりますとねえ。刈入れはどうなることでございましょうかねえ?〉


 革命が、多くの中国人にとって他人事であったことを、老女の言葉は物語っています。

 もうひとつは、要人との面会です。なぜここまで入り込めたのかと驚くほど、ファルジュネルは中国の要人――例を挙げるなら、袁世凱などと頻繁に会っています。

 袁世凱は、〈辛亥革命後、宣統帝を退位させて、中華民国最初の大総統となる〉(ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」)男です。いわば辛亥革命の中心人物ですが、ファルジュネルの袁世凱評は興味深いものでした。


 〈(袁世凱らに会い)別な時代に属しているという、はっきりした印象を持った。新しい世代とはなんという相違だ!〉


 袁世凱は権力を握ると、血の粛清を行います。彼の行動は、新しい時代に即したものではなく、あくまで古い価値観で動いていたのです。ファルジュネルに言わせれば、袁世凱は外国を知らず、勉学には向いてなく、〈宇宙の一部分がそっくり彼の知的把握からのがれ去っている〉人物でした。野心だけに突き動かされた男が、新しい中国のトップに立ったのです。

 ファルジュネルは看破します。


 〈彼の不幸および彼の国の不幸は、消滅した時代を再現することであった〉


 改革を叫びながら、かつての時代を取り戻そうとする。――ここまで書いて、まるで今の日本のトップと同じではないかと、私は背筋がうら寒くなりました。



今週のカルテ

ジャンルジャーナリズム/記録
時代 ・ 舞台1900年代初頭の中国
読後に一言辛亥革命が起こったのは、1911年の10月。今からちょうど105年まえのことです。
効用「ルポルタージュ」として、面白い読み物になっています。
印象深い一節

名言
中国は無脊椎の図体にすぎず、あるいは神経組織の欠けた巨人に似ていた。(「革命の起源」)
類書中国革命運動に身を投じた日本人の半生記『三十三年の夢』(東洋文庫100)
英国軍人による太平天国の記録『太平天国(全4巻)』(東洋文庫 11ほか)
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