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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

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『漢書食貨・地理・溝洫志』(班固著、永田英正・梅原郁訳注)

2016/11/10
アイコン画像    現代の地質学者によって発見された
中国最古の王朝の痕跡――大洪水

 ちょっと前の話になりますが、BBCのwebサイトで、「古代中国の大洪水伝説、地質学で論証」(2016年08月6日)というニュースを目にし、私はのけぞらんばかりに驚きました。要約しますと、中国最古の王朝「夏」の成立に繋がる、伝説の黄河の大洪水が実際に起きていたことを示す地質学の研究論文が発表されたというのです。

 〈『史記』の「夏本紀」が伝えるところによると、夏王朝の始祖禹(う)は黄河の洪水を治めるのに献身的に努力し、その功により、舜の死後、諸侯から推されて天子となった〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」、「夏」の項)

 禹は治水を成功させたことで、中国最古の王朝を打ち立てます。今までは伝説とされていましたが、その根拠である大洪水が本当だった、という地質学的発見が発表されたのですから、これは驚くほかありません。

 もちろんこのことが、禹や夏の存在を確かにするわけではありませんが、伝説が真に迫ったことは事実です。

 『漢書食貨・地理・溝洫志』は、「漢書」のひとつですが、漢書は前漢のことを記した歴史書です。中でも「志」は分野史というべきもので、本書は、食貨(農業と貨幣)、地理、溝洫(水利)について書かれています。で、読んでみて驚いたのですが、それぞれの記述は、禹から始まっているといっても過言ではないのです。


 〈禹は洪水をおさめ、九つの州を定め、田地を整理し、おのおのの生産物と土地の遠近とにしたがって徴税し、貢納させた〉(「漢書食貨志」)


 〈禹は治水のために各地方を区分し、山なみにしたがって木をきり、それを目印しに水道を通し、高い山、大きな川すじをさだめた〉(「漢書地理志」)


 〈(禹は)黄河の氾濫が、最も大きな災害を中国にもたらしたため、その治水にとりわけ専念した〉(「漢書溝洫志」)


 つまり、禹の治水によって中国の礎ができた、こう考えられていたということです。そして、そもそもの治水の出発点である「黄河の大洪水」(研究論文によれば、紀元前1900年頃)が、地質学者らによって証明されようとしているのです(私はひとり、興奮しています!)。

 現代社会でも、「インフラ工事」は国を支えるものですが、この時代の治水はなおさらでしょう。「漢書溝洫志」は『春秋左氏伝』の次の言葉を引いて結んでいます。


 〈もし禹の治水がなかったならば、我々はすべて魚になっていたであろう〉



本を読む

『漢書食貨・地理・溝洫志』(班固著、永田英正・梅原郁訳注)
今週のカルテ
ジャンル政経/歴史
時代 ・ 舞台紀元前の中国
読後に一言日本のマスコミに不信感のある私は、BBCやSputnik、ロイターなど、外国メディアサイトを定期的にチェックするようになりました。
効用膨大な「漢書」の3つの「志」。これだけでも漢書の何たるかが見えてきます。
印象深い一節

名言
民がみち足りていないのに、よく治めることができたという話は、古今を問わず、未だかつて聞いたことがございません。(漢書食貨誌「賈誼の重農論」)
類書漢書のひとつ『漢書五行志』(東洋文庫460)
同上『漢書郊祀志』(東洋文庫474)
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