1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
明治の難局を乗り切った桂太郎 本音を吐露した自伝を読む |
11月1日から、ジャパンナレッジのラインナップに「人物叢書」(吉川弘文館)が入ったというニュースを耳にして、個人的にちょっと嬉しくなりました。今でもそうでしょうけど、私の学生時代は文系の必携でした。いまでもわが家の書架に、人物叢書数冊が埃をかぶっています……。
残念ながらジャパンナレッジでは、法人向けサービス& JKBooks(購買型商品)だそうですが、それでも本書が全文検索できるのは画期的です。何より、東洋文庫などのその他ラインナップとクロス検索&検討が可能になります。
例えば、人物叢書で『南方熊楠』を読み、著書『十二支考(全3巻)』『南方熊楠文集(全2巻)』を東洋文庫でチェックする。人物叢書の『ハリス』と東洋文庫の『ハリス伝』を比べる。源義経、親鸞、菅江真澄……。皆、何らかの形で、両方にラインナップされている面々です。ほんと、今の時代に大学生でありたかった……。
というわけで、人物叢書&東洋文庫の両方に跨がる偉人の中から、ひとりピックアップしてみましょう。桂太郎(1847~1913)――〈三度首相となり、日英同盟・日露戦争・韓国併合を断行〉(ジャパンナレッジ「デジタル大辞泉」)した長州閥の大物政治家です。その桂が、『桂太郎自伝』を自らしたためているのです。
これがどういう本かというと、自序のサインで明らかです。桂は誇らしげに記します。
〈内閣総理大臣陸軍大将従二位勲一等功三級伯爵大江朝臣識〉
最高潮は、天皇陛下より首相を命じられる場面です。
〈不肖の身を以て此の重任に膺(あた)り、誠意誠心国家の難局に当らんとの決心を執て参内せり〉
最初から最後まで、実に誇らしげなのです。
実際、桂の時代は難しい時代で、日英同盟、日露戦争、日韓併合……と、日本の行く末を決めた大きな出来事を桂は処理します。しかし本書は「自伝」であることがミソです。〈その慢心ぶりは明治天皇も「桂の大天狗(てんぐ)」と評した〉(同「ニッポニカ」)そうですし、同じ長州閥の大先輩・山形有朋(1838~1922)は、この自伝を一読し、一笑したとか。
〈この自伝は恰(あたか)も桂が詩でも作る如く、起承転結、よくその辻褄を合はせて書いたもの〉
この自伝はしかし、桂の本音が溢れています。では真実は? ……無責任ですが、あとは人物叢書に任せます。
ジャンル | 伝記 |
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時代 ・ 舞台 | 1847~1902年の日本 |
読後に一言 | 解説によれば、〈人々にはいつも「ニコニコ」と愛想をふりまき、また親しさを表現するしぐさとして相手の別なく肩をぽんと叩いたので、「ニコポン宰相」とのあだ名をつけられた〉のだそうです。 |
効用 | 自伝を100%信用するわけにはいきませんが、これが貴重な明治の資料であることは間違いありません。 |
印象深い一節 ・ 名言 | 凡そ事実を謬(あやま)りたるものゝ世に伝はらんよりは、寧ろ伝へざるこそよけれ。(自叙) |
類書 | 本書にも登場(かつ人物叢書&東洋文庫W収録)『星亨とその時代(全2巻)』(東洋文庫437、438) 同上『青木周蔵自伝』(東洋文庫168) |
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(2024年5月時点)