1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
真田丸の最期を先取り予想!? 完結編「甲子夜話三篇」を楽しむ(1) |
NHK大河ドラマ『真田丸』もいよいよクライマックス。終わるのが惜しい、と思っている方も多いでしょう(私もそのひとりです)。ジャパンナレッジの「VOICE」に登場した同ドラマの時代考証を担う丸島和洋氏もインタビューで仰ってましたが、最新の歴史学の成果を取り込みながら、史実にない部分は大胆に飛躍させているように思います。そのバランスが面白いのでしょう。
さて当コーナーでも、6月より、松浦静山の大著「甲子夜話(かっしやわ)」シリーズを取り上げて来ましたが、残る『甲子夜話三篇』を取り上げ、『真田丸』と同じく年内に読み終えようと思います。
私個人の『真田丸』の最大の興味は、「どう終わらせるのか」というところです。何せ〝敗者〟の側ですからね。難しいところです。この豊臣滅亡に関して、あの松浦静山が触れないわけがありません。
まずは大坂五人衆の行く末。キリシタンの明石全登は?
〈大坂籠城諸士の内、明石掃部(全登)、五月七日、京橋口より船に乗りて遁れ出、兵庫に至り、其所より長崎表へ漕渡り、兼てより耶蘇宗たるに依て、南蛮国へ渡りしとなり。大野主馬治房(大野治長の弟)も、同宗たるに依て、妻子迄も船に取乗せ、是も京橋口を出船し、明石と均しく南蛮国へ押渡りしと云〉
いいですねぇ。逃げ延びたんですね。〈落城後逃亡し潜伏していたが三年後病死した〉(ジャパンナレッジ「国史大辞典」)という説もあれば、〈大坂落城後、戦死とも、逃亡潜伏後病死したともいわれている〉(同「世界大百科事典」)という説もあります。南蛮国に渡ったか定かではありませんが……。調べた限り、他の大坂五人衆の最期に関しては、『甲子夜話三篇』に見つけることができませんでしたが、われらが幸村はありました。静山は源義経や明智光秀の生存説を引きながら、幸村にも触れます。
〈真田幸村も、実は討死はせず存在せしこと、既に其実事を云如くなれば、強て難定と云しも亦誣(いつはり)ならじ〉
静山は、断定は難しいと言っていますが、さてドラマではどうなるのでしょうか。
とはいえ、やはり最期は城の炎上シーンでしょうか。
〈秀頼も桜門より千畳敷へ入る。其内に郭外の小屋悉く放火、余烟城中に移る。是に依て、秀頼母儀(茶々)、相残る者ども殿守に取上り、自殺を催。午刻悉焼失〉
勝ち馬に乗るよりも、敗者に寄り添いたいものです。
ジャンル | 随筆/風俗 |
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書かれた時代 | 1800年代前半の江戸 |
読後に一言 | 『甲子夜話三篇』の1巻から6巻まで、3回に分けてお送りします。 |
効用 | 下の名言を見ていただければわかる通り、60を過ぎた静山は「甲子夜話」を書き始め、その後20年間、死ぬ直前まで筆をとったのでした。書き続けることのすごさが、伝わってきます。 |
印象深い一節 ・ 名言 | この夜話を書初めしは、文政四年〔辛巳〕(1821年)の仲冬にして、歳月流るゝが如く、はや十有三の星霜を歴たり。 |
類書 | たびたび引用される新井白石の『新訂 西洋紀聞』(東洋文庫113) 秀頼にも言及するオランダ商館長の日本論『日本大王国志』(東洋文庫90) |
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(2024年5月時点)