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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 629|633

『五雑組 5、6』(謝肇淛著、岩城秀夫訳注)

2017/01/26
アイコン画像    お酒を飲むと出世できない!?
百科全書的エッセイを読む (3)

 さて、年末年始にかけて、忘年会や新年会で「お酒を飲んだ!」という人はどのくらいいるのでしょうか?

 お酒を飲む頻度を尋ねたインターネット調査(wine-bzr.com「お酒を飲む頻度に関する調査」2016年10月)によると、「お酒好き」(「毎日飲む」「週に2~3回飲む」の合計)は36.2%。一方で、「お酒NG」(「ほとんど飲まない」「まったく飲まない」の合計)は38.9%だそうです。20代に限っていえば、「お酒NG」は44.8%とグンと跳ね上がります。年代が上がるにつれて、「お酒好き」は増えていますから、世代間格差は確実にあるようです(ちなみに60代の「お酒好き」は45.8%)。

 世間的には、「酒ぐらい飲め!」という意見が多いのかも知れませんが、「飲まなくていいぜ」という力強い意見を紹介しましょう。『五雑組』の「物部」にある言葉です。


 〈酒が入れば饒舌になり、饒舌になれば身は破滅する。よくよく戒めなければならぬ〉


 著者の謝肇淛(しゃちょうせい)、飲酒の大否定ですね。さらに……


 〈人は酒を飲まなければ、いくつかの地位が得られる〉


 酒を飲まなければ出世する――。こう断言しています。その理由を見てみましょう。お酒を飲まない利点は3つ。


(1)〈志や知識が昏(くら)くならない〉

(2)〈時を廃し事を失する〉

(3)〈失言をしたり態度をあやまったりしない〉


 つまり、酒を飲めば、意志薄弱になり、時間にもルーズ、失敗と失言のオンパレード、ということです。


 〈わたしはこれまでに篤実で謹厳な人が、酒を飲んでのち、狂妄な人間に変じてしまったり、勤勉力行の人が酔ったことからその職業を失うことの多いのを見て来た。ましてや、醜態の極みは、妻子からも訕(そし)られたり笑われたりで、親戚や知人からも畏れられたり憎まれたりするではないか〉


 とまで謝肇淛は書いていますからね。もしかして著者本人が酒で大失敗したのでは? と勘繰りたくなります。

 でもこれからは、お酒の苦手な人は、こう言って断われますね。

 「中国の有名な随筆『五雑組』では、酒を飲まなければ出世すると言っています」



本を読む

『五雑組 5、6』(謝肇淛著、岩城秀夫訳注)
今週のカルテ
ジャンル随筆
成立した時代17世紀前半の中国・明
読後に一言最近めっきりお酒を飲まなくなり、「ほとんど飲まない」のカテゴリーに入っていますが、出世……はしていないなあ。
効用5巻、6巻は「物部」の巻。中でも5巻では、竜や蝿など「生物」の記述が多く、これはこれで興味深い内容です。
印象深い一節

名言
(贅沢な物ばかり食していると)おそらくはこの人生における限りのある福を折ってしまうことにもなろう。(『五雑組 6』)
類書宋代の酒の本『中国の酒書』(東洋文庫528)
宋~清代の花の本『中国の花譜』(東洋文庫622)
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