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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 640|646

『五雑組7、8』(謝肇淛著、岩城秀夫訳注)

2017/02/02
アイコン画像    読書の楽しみとそこに潜む陥穽
百科全書的エッセイを読む (4)

 今さらですが「東洋文庫」の魅力は何でしょうか?

 そのひとつはやはり、何巻にもおよぶ大長編が収録されていることでしょう。ジャパンナレッジのラインナップ作品で巻数の多い順にランキングしてみます。


1.『甲子夜話』シリーズ20巻(正編6、続編8、三編6)

2.『アラビアン・ナイト』シリーズ19巻(別巻1含む)

3.『和漢三才図会』18巻

4.『今昔物語集』10巻

5.『五雑組』8巻


 つまり本書『五雑組』は、堂々の5位にランクインしているんですね(当コラムではこれまで、1位、2位、4位の作品も取り上げています)。こうしたロングシリーズを読むと、少なくとも達成感はあります。

 博覧強記である謝肇淛(しゃちょうせい)は、当然、読書家であるわけですが、やはり「読書」に関しても一家言持っています。


 〈まだ見たことのない書物を読み、まだ訪ねたことのない山水をめぐるのは、至宝を手に入れたり、珍味を嘗(な)めたりするようなもので、一段と痛快である〉


 新しい本を手にとった喜びが、見事に言い表されています。しかし著者は、読書を手放しで推奨しません。


 〈古人の読書は正しい筋道を明らかにすることであり、中古の読書は学問に資する為であり、当世の人の読書は、科挙に及第したいが為にすぎない〉


 と「読書の質」を嘆きます。さらに(ここは耳が痛かったのですが)、「愛書家の欠点」なるものを説きます。


 〈書物好きの人に三つの欠点がある〉


 と言うのですが、かいつまんで説明すると、


(1)本棚にきれいに並べて美を誇るだけ。


(2)本をたくさん収集して所蔵するだけ。


 そして3番目に挙げるのがこれ。


 〈博学多識で、一生涯こつこつと努力しつづけるけれども、眼識に鋭さも深さもないため 、自分の説を展開することができない〉


 ようは、読書が目的化してしまっていて、その先に行けない(私もそのひとりだなあ)、と批判しているのです。

 著者自身も、「書く」ことでようやく長年の読書が報われたと漏らしていますから、そういうことなのでしょう。

 本書に、著者の心憎い言葉を見つけました。読むこと、書くことにこだわった著者ならでは、の言葉です。


〈言語は心の華である〉



本を読む

『五雑組7、8』(謝肇淛著、岩城秀夫訳注)
今週のカルテ
ジャンル随筆
成立した時代17世紀前半の中国・明
読後に一言これにて『五雑組』シリーズは終了です。いやあ、ウンチクが増えました(笑)。
効用8巻には、古典落語「まんじゅうこわい」の元ネタ(初出ではないよいうですが)も載っています。
印象深い一節

名言
利を好む人は色を好む人より多い。色を好む人は酒を好む人より多い。酒を好む人は賭博を好む人より多い。賭博を好む人は書物を好む人より多い。(『五雑組 7』)
類書単独の大長編(百科事典)『和漢三才図会(全18巻)』(東洋文庫447ほか)
単独の大長編(物語)『アラビアン・ナイト(全18巻)』(東洋文庫71ほか)
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