1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
なぜ世界は乱れるのか―― 五行が警鐘を鳴らすトップの振るまい |
2017年1月20日――この日は、しかるのちに「あの日からだった」と歴史に刻まれるかも知れません。そう、ドナルド・トランプが第45代米国大統領に就任した日です。
氏は就任演説で、〈保護主義こそが偉大な繁栄と強さにつながる〉、〈自分たちの利益を最優先にする権利がある〉と口を尖らせ、〈アメリカを再び偉大にします〉と胸を張りました(NHK NEWS WEB「トランプ大統領就任演説 日本語訳全文」/1月21日)。
いったいこれから、どんな世界になるのでしょうか。
「漢書」は、〈前漢の歴史を紀伝体で記した〉(ジャパンナレッジ「デジタル大辞泉」)正史のひとつですが、その中の1冊、『漢書五行志』によれば、世界は、〈「木」「火」「土」「金」「水」〉の5つから成り立っている(五行)そうです。で、災害などをこのように定義づけます。
〈災害や怪異の現象は、人間の悪徳や悪行が五行のバランスを乱し、世界なり自然なりの秩序を混乱させるために発生する〉
つまり国のトップがダメだと国がおかしくなる、というんですね。本書は、いってみれば、そういう事例をこれでもかと掲載している本なのです。
はっと辺りを見回すと、世界各国のトップは、「暴君」と呼びたいような人ばかりです(暗愚と呼びたい人もいます)。すると世はどうなるか。
『漢書五行志』は次のように言います。
〈上に立つものが聡明でなく、暗愚で心がおおわれていると、善悪を見わけることができず、近習を親愛し、同類の輩を増長させる〉
まさに隣国・韓国で起こっていることですし、米国ではすでにトランプ大統領の「政治の私物化」が批判されています(そういう日本だって、首相の実弟が外務副大臣を務め、内閣にも「お友達」が何人もいます)。『漢書五行志』の立場に立てば、この世界はますます荒れます。
救いがあるとするなら、すでに各国で声が挙がり始めていることです。トランプ抗議デモ主催団体によれば、反トランプデモに、〈世界約80カ国の670カ所で、約480万人(日本時間23日午前1時現在)が参加した〉そうです(朝日新聞デジタル/2017年1月23日)。さらに言うなら、『漢書五行志』が紹介する愚者のリーダーの末路は、皆、悲惨です。天が許さないのです。天が罰するはず……と考えるのは、あまりにも能天気でしょうか。
ジャンル | 思想/歴史 |
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時代 ・ 舞台 | 紀元前の中国 |
読後に一言 | 「読み物」としてみるならば、頻出する〝怪異現象〟の記述にそそられました。 |
効用 | 五行の考え方が、意外と日本にも根付いていることに気づかされます。 |
印象深い一節 ・ 名言 | 五行とは、一に水、二に火、三に木、四に金、五に土。(「五行」) |
類書 | 古代中国の思想『古代中国研究』(東洋文庫493) 中国の宗教観『中国人の宗教』(東洋文庫661) |
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