1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
韓国の歴史を動かすのは復讐心!? 朴前大統領の騒動を読み解く |
日本も韓国も、しょーもないことで政治がぐちゃぐちゃになっておりますが……朴槿恵(パク・クネ)大統領の騒動を巡る報道の中で、私はBBCのレポートに驚きました。
朴前大統領の騒動のきっかけは、高永台(コ・ヨンテ)氏(服飾ブランド経営者)のマスコミへのたれ込みでした。高氏は一時期、朴大統領の友人・崔順実(チェ・スンシル)氏の愛人だと報じられた人物です。BBCのレポート(2017年3月10日、WEB「BBC NEWS JAPAN」)によると、3年前、高氏は崔氏の娘の子犬を預かったんだそうな。ところが子犬をほったらかしてゴルフにいってしまった。激高した崔氏は、高氏を口汚く罵った。で、関係が悪化。〈傷つき腹を立てた高氏は、崔被告と朴大統領との関係をメディアに暴露して復讐することにした〉。子犬――つまり私憤が、大統領のクビを飛ばしたのです。
このエネルギーは何だろうかと思っていたところ、答えてくれる書を見つけました。パリ外国宣教会士(クロード・シャルル)ダレ(1829~78)による『朝鮮事情』です。ダレは、朝鮮で殉教した神父が収集した資料を用い、『朝鮮基督教史』を記します。〈朝鮮キリスト教史の基本文献〉(ジャパンナレッジ「世界大百科事典」「ダレー」の項)と評価される本です。本書は、その「序論」のみをピックアップしたもの。19世紀半ばの朝鮮の姿を、あますことなく伝えています。ダレ自身は、朝鮮に足を踏み入れていませんが、ある意味、主観の入り込まない貴重な記録となっています。
で、朝鮮人の性格を記した箇所。
〈彼らは、怒りっぽいが、それと同程度に、復讐心に満ちている。たとえば、五十の陰謀のうち四十九までが何人かの陰謀加担者によって事前に暴露される。これらはほとんどいつも、個人的な恨みを満足させるためのものであったり、かつての少し辛辣な言葉に対する仕返しのためであったりする。敵対する者たちの頭上に懲罰を加えることができるならば、自分が罰せられることなど、彼らにとっては何でもないのである〉
まんまですね。だから朝鮮は……と批判したいのではありません。これはお国柄であり、文化なのです。そこを認めなくちゃいけないんでしょうね。ダレは朝鮮人の美点もちゃんと記述しています。
〈相互扶助と、すべての人に対する気前のよいもてなしは、この国の国民性の顕著な特徴であり、すぐれた美点である〉
長短ひっくるめて隣国を理解しないといけませんね。
ジャンル | 記録/宗教 |
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時代 ・ 舞台 | 19世紀半ばの朝鮮 |
読後に一言 | 〈朝鮮の「朝鮮やか」という意味自体、中国に由来することばである。中国からすれば、朝鮮は、まさに朝の国なのである〉。「日本」の名づけ方とそっくりですね。 |
効用 | 背格好や顔つきも、朝鮮人は、〈中国人よりも日本人に似ている〉んだそうです。という国の社会、歴史、風土、文化が、非常によくわかります。 |
印象深い一節 ・ 名言 | このような(貴族の党派間の)憎み合いは、世襲され、父親はそれを子供に伝える。 |
類書 | イサベラ・バードの見た19世紀末の朝鮮『朝鮮奥地紀行(全2巻)』(東洋文庫572、573) ロシア人による19世紀末の朝鮮踏査報告『朝鮮旅行記』(東洋文庫547) |
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