1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
「七夕」ってどんな日? 中国の歳時記で「七夕」を読む |
ジャパンナレッジは自ら、「辞書・事典を中心にした知識源から「知りたいこと」にいち早く到達するためのデータベース」と謳っていますが、『文庫クセジュ』や『新編日本古典文学全集』など叢書も充実しています。しかし、検索からこうした叢書に行きつき、さらに読み込む、というケースはあまり多くないかもしれません。
では、叢書を楽しむには?
私がオススメする『東洋文庫』の楽しみ方は、なにかの行事の前に検索してみることです。たとえば明日は「七夕」です。「詳細検索」で東洋文庫を選び、「七夕」で全文検索する。そこで挙がってきた七夕情報を読むだけで、結構な情報を得られます。
実際、東洋文庫には、日中韓の歳時記が揃っています。
斎藤月岑がまとめた江戸の歳時記『東都歳事記』。
明治時代の歳時記『東京年中行事』。
朝鮮半島の生活を描く『朝鮮歳時記』。
湖南・湖北地方(長江中流域)の年中行事『荊楚歳時記』。
北京の年中行事『燕京歳時記』。
つまり日中韓の風俗を比較検討できるんですね。
今回は、長江河口域の蘇州の歳時記『清嘉録』で「七夕」を見ていくことにします。
〈七夕になると、あるいは花や果物とともに、線香蝋燭を庭または露台の上に並べ、雙星(牽牛・織女)を礼拝して乞巧するものもいる〉
〈乞巧〉とは、〈婦女が織女星に裁縫の上達を乞うもの〉だそうです。お供えをして、織姫に願ったのですね。七日の前夕(つまり今日ですね)には、〈巧(とくこう)〉といって鴛鴦(えんおう)水を用いた「針占い」も盛んだったようですが、これも針仕事の上達を占うものだったそうです。
どうです? 織物や針仕事が女性にとっての大切な仕事であったということ、七夕がその象徴であったことが、見えてきます。私はひとつ利口になりました。
ちなみに訳者の中村喬氏は、東洋文庫所収の『中国の酒書』や『中国の食譜』などの翻訳をした中国文学者です。さらに調べてみると、父上は同じく中国文学者の青木正児氏。東洋文庫にも『琴棊書画』や『江南春』、『中華名物考』など、多くの作品が収録されています。父子ともに、東洋文庫に作品が収録されていたとは!
子が父の研究を引き継ぐ――。政治家や芸能人の2世と違って、こういう2世は大歓迎です。
ジャンル | 風俗 |
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時代 ・ 舞台 | 清代中葉の中国 |
読後に一言 | 季節を大切にしていたからこそ、こうした『歳時記』が編まれたのでしょう。では今の時代に歳時記は成立するのでしょうか。 |
効用 | 詳細な注を読んでください。これが非常に勉強になります。 |
印象深い一節 ・ 名言 | 時序の天下に在るは、海内皆な同じであるが、しかし一地方には一地方の風俗人情が有り、これを他に強いることはできない。(「序」) |
類書 | 漢代の歳時を記す『四月月令』(東洋文庫467) 清国の風俗聞き書き『清俗紀聞(全2巻)』(東洋文庫62、70) |
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