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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 387|390

『玄玄碁経集(全2巻)』(呉清源解説)

2017/07/13
アイコン画像    打ってみれば世界が見える!?
囲碁からまなぶ人生の真理

 とりたてて「大河ドラマ」のファンというわけではないのですが、『おんな城主 直虎』を欠かさず見ています。大きな時代のうねりを描くのではなく、そのうねりに翻弄される小国の悲喜交々を描いているのですが、これが新鮮で面白いのです。この中で、要所で登場するのが「囲碁」です。直虎(柴咲コウ)と政次(高橋一生)との碁のシーンは、結構ゾクリとします。碁を打つことで、秘めた感情のやりとりをしているのです。

 東洋文庫には、碁の古典的名著がラインナップされていますが、『玄玄碁経集』もそのひとつ。碁は少なくとも孔子の頃より嗜まれ、〈唐代になると,碁は士君子のたしなむべき四芸〈琴棋書画〉の一つとして広く上流社会に行われ〉(ジャパンナレッジ「世界大百科事典」)たそうです。日本には6世紀に伝来し、〈室町・戦国時代には碁は僧,武将の間に盛んに行われ〉(同前)ました。

 なぜ武将たちは盛んに碁を打ったのか。

 本書は基本的に詰碁集なのですが、冒頭部分で、碁とはなんぞや、ということを明らかにします。その中に、「囲碁十訣」という約束事が書かれていました。


 〈一、むさぼり勝とうとしてはならない。
 二、敵の境界に入るには緩やかであれ。
 三、敵を攻めるには味方をかえりみよ。
 四、石を棄てて先手を争え。
 五、小を捨てて大に就け。
 六、危険になれば棄てることが大事である。
 七、足ばやでありすぎないようつつしめ。
 八、敵が動けば対応しなければならない。
 九、敵が強ければ味方を保て。
 十、勢力が孤立しているときは和をとれ。〉


 声に出して読んでみてください。深いですよねぇ。「囲碁十訣」ではなく、「人生十訣」としても通用します。

 囲碁は宇宙の真理そのものであると、かつての人たちは考えました。しかもその世界は、マニュアルではかれないのです。なぜなら同じ勝負はないから。


 〈古えより今にいたるまで、碁に同じ局はなく、いい伝えにも「日に日に新たなり」とある。だからこそ、意を用いること深く、慮を運らせること精しくして、勝敗のよって来るところを求めれば、いままで到達できなかったところにまで至ることができるのである〉


 その境地に到達してみたいなあ。



本を読む

『玄玄碁経集(全2巻)』(呉清源解説)
今週のカルテ
ジャンル趣味
成立した年代1300年代の中国・元の時代に再編
読後に一言囲碁初心者は、1巻「序之部」だけでもお読みください。こうした「思想」を創り出すことは、さすがに人工知能ではできないでしょう。
効用囲碁好きは、メインの詰碁をお楽しみください。
印象深い一節

名言
そもそも囲碁のあり方の中には、天地の方円の象徴があり、陰陽の動静の道理が備わり、星辰の集散の秩序が保たれ、風雲の変化の機微が潜み、春秋の栄枯の意義が含まれ、山河の起伏の形勢が表わされ、世事の興亡、一身の盛衰で、凡そその中に寓していないものはない。(「玄玄碁経序」)
類書囲碁エピソード集『爛柯堂棋話(全2巻)』(東洋文庫332、334)
詰碁の名著『官子譜(全5巻)』(東洋文庫318ほか)
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