1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
世にも不思議な夫婦の縁とは 中国版 男女六人恋物語 |
〈夫婦のえにしは天のさだめ/人の力じゃどうにもならぬ〉
結婚することがことさら素晴らしいこととは思いませんが、〈天のさだめ〉というのは、どこかで納得できます。というかそう思わないと夫婦なんてやっていられません。
『今古奇観4』の第28話は、いろんな意味で衝撃的な話です。皆まで書けませんが、〈寝台の揺れきしむ音とはげしい息づかい〉の行為が、結構アケスケに描かれます。宋代の物語なのですが、展開も衝撃的です。
6人の結婚適齢期の男女が登場します。医者の息子の(A)劉璞(りゅうはく)、その妹の(B)慧娘(けいじょう)。未亡人の娘の(C)珠姨(しゅい)、その弟の(D)玉郎(ぎょくろう)。薬屋の息子の(E)裴政(はいせい)。画家の娘の(F)文哥(ぶんか)。この男女6人の物語です(複雑なので以後、記号で記します)。それぞれ結婚が決まっていて、A-C、B-E、D-Fという組み合わせです。
AとCがさあ婚礼という時、Aが風邪をこじらせて、〈人事不省〉になってしまう。Cの親はその情報を得、娘を病人に渡せるか、と憤る。で、Cの身代わりに、年子の弟Dを女装して送り込むんですね。Aが治ったら、その時はCとDを取り替えればいい、と。
Dは美少年なので、女装が似合う。それを見たBは「素敵なお姉様」と思ってしまう。で、結婚すれば二人は義理の姉妹になるのだからと、DとBを同じ部屋に泊めてしまう。年頃の若い男女が同じ部屋です。
〈乾いた柴を燃えあがる火に近づければ、こうなるのは当然である〉
そりゃあ寝台は揺れます。そしてバレます。娘を傷物にされたとBの両親は激高。二人で責任をなすり合い、取っ組み合いの喧嘩に。とうとう、裁判所に訴えることになった。さあどうなったか。
この裁きが素晴らしい。D-B、まずこの結婚を認めます。A-Cもそのまま。収まらないのはEとFの親ですが、なんとEとFを夫婦にしてしまう。結果、三方丸く収まり、〈一門一族は大いに富み栄えた〉と、美談として語り継がれているというお話でした。
〈夫婦のえにしは天のさだめ〉ということなんでしょうが、最近、世の中でニュースになるのは醜い夫婦の話ばかり。不倫にDV、名誉校長……。少子化だと世は騒いでおりますが、こんな醜い夫婦ばかり見せられていては、結婚もしたいと思わないよな。
ジャンル | 文学 |
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成立した年代 | 1600年代の中国・明 |
読後に一言 | 国土の規模に対して、日本は人口が多すぎますからね。実は少子化も悪くないんじゃないかと……。 |
効用 | 第27話は、金持ちのブ男が、従兄弟のイケメン(秀才で貧乏)を自分の替え玉にし、美女を娶ろうという話。やはり〈夫婦の縁には定め〉あり、というオチなのでした。 定めには逆らえないのですね。 |
印象深い一節 ・ 名言 | 善事も悪事も皆それぞれに/報いがあるのは天のさだめ/人に悪事をたくらむならば/かならずわが身にはね返る(第29話) |
類書 | 中国女性100余人の説話集『列女伝(全3巻)』(東洋文庫686ほか) 講釈の口演記録『中国講談選』(東洋文庫139) |
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(2024年5月時点)