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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 90

『日本大王国志』(F.カロン原著、幸田成友訳著)

2011/03/10
アイコン画像    江戸時代、日蘭の関係を築いたひとりのダイバーシティな男がいた。氏が見た日本とは?

 日本人フットボーラーが次々と欧州リーグに参戦するのを見て、ことサッカーに関してはずいぶん世界と近くなったなぁと思う。今までは、奥寺康彦、三浦知良、中田英寿、中村俊輔……と、いわばその時点での日本のトップが挑戦してようやく、という感じだった。

 ところが最近では、W杯の代表でもなかった香川真司がドイツで活躍し、ついには2011年2月、長友佑都が世界一のチーム、セリエAのインテル・ミラノの一員としてデビューしてしまった(当たり前になったことで、日本マスコミの偏向報道が減ればいいなあ。日本人が活躍すればそのチームは負けてもいい、という手前勝手な身びいき報道、もう通用しないと思うけど)。


 では問題。現在のモダン・サッカーを生み出した国は?

 答えはオランダ。高卒ルーキーの宮市亮やアジア杯で名を上げた吉田麻也が活躍するあのオランダである。

 ではオランダと日本の関係は? ということで『日本大王国志』を紐解いてみた。これは、〈日本に関するオランダ人最初の書〉(ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」カロンの項)で、著者のカロンは平戸のオランダ商館長を務めた人物。


 〈フランソワ・カロンは通算20年日本に滞在し、日本のことば、風習に通じ、両国の友好に貢献した。(中略)なかでも宗門奉行井上筑後守政重や長崎代官で大貿易商人でもあった末次平蔵との親密な関係は、鎖国体制に向かう重大な変革期にオランダが以後も日本と関係を保つため、決定的な意味をもった〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」オランダの項)


 つまりカロンの存在が、あの鎖国の時期にオランダが貿易を許された大きな要因になったというのである。一人の男の存在が、国のイメージをUPさせたのだ(カロンは、フランス人を両親に持つダイバーシティな男だ)。

 ではそのカロンは日本をどう見ていたのか。


 〈(酒の席で)何程熟酔しても喧嘩せず、争論せず、迷惑を掛けぬ長所がある〉


 〈彼らは子供を注意深くまた柔和に養育する。たとえ終夜喧しく泣いたり叫んだりしても、打擲することはほとんど、あるいは決して無い〉


 日本人を妻とし6人の子供をもうけたカロンである。親日家の見る目はとても優しい。他国を理解するカロンのような存在が、実は歴史を動かしてきたのだと思うと、なぜだか無性に嬉しくなった。

本を読む

『日本大王国志』(F.カロン原著、幸田成友訳著)
今週のカルテ
ジャンル歴史/評伝
時代 ・ 舞台徳川家光の代の日本
読後に一言逆にオランダのことが知りたくなりました。
効用たった一人でも歴史は動かせる。そんな勇気をもらえます。
印象深い一節

名言
この国民(日本人)は信用すべしと認められる。彼らは第一の目的である名誉に邁進する。また恥を知るを以て漫に他を害うことは無い。
類書オランダ商館の書記による日本紹介『日本風俗備考(全2巻)』(東洋文庫326、341)
オランダ東インド会社による1600年代の日本の報告『バタヴィア城日誌(全3巻)』(東洋文庫170、205、271)
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