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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 547

『朝鮮旅行記』(ゲ・デ・チャガイ編 井上紘一訳)

2018/02/22
アイコン画像    まずは相手を知ることから始めよう
ロシア人の目を通した130年前の朝鮮

 次の2つの文章は、19世紀末にある地(●●)を訪れたロシア人の見解です。


 〈●●人は機知に富み、活発で、感受性も好奇心も旺盛である〉

 〈●●人に固有といえる特徴は、温和、善良、従順である〉


 では問題です。「●●」には何と入るでしょう。

 一読した感じでは、「日本」と思ってしまいます。そう書かれていても違和感はありません。

 しかし正解は、なんと「朝鮮」。

 「そんなバカな」と思う人もいるかもしれませんが、これは事実。さらにこんな指摘もしています。


 〈性格的には、朝鮮人は自らが模倣に努める中国人よりも、日本人によく似ている〉


 姿カタチも性格もそっくり。おまけに、中国の文化の影響を受け続けてきたという歴史もそっくり。もしかしたら、似すぎているがゆえに、お互い気に入らないところに目が行ってしまうのかもしれません。

 本書『朝鮮旅行記』は、1885年から1896年の朝鮮を訪れたロシア人(商人、役人、軍人)による紀行文集(計5本)です。当時、ロシアは朝鮮半島と国境を有しており、朝鮮半島の情勢は国家的な関心事でした。年表的には、1894~5年に日清戦争、1910年に日韓併合がありました。つまり本書は、日本が朝鮮半島を植民地化する流れを記したレポートでもあるのです。

 中でも、閔妃(びんひ、みんび)暗殺事件は、迫真のルポ(聴書)です。閔妃は、〈朝鮮王朝の第26代高宗(コジヨン)の妃〉です。〈日清戦争後,ロシアとむすんで反日政策をとったため,朝鮮公使三浦梧楼が指揮する軍人,壮士らによって高宗32年8月20日(1895年10月8日)殺害され〉てしまったのです(ジャパンナレッジ「日本人名大辞典」)。言うことをきかないから殺す。これではテロ国家です。

 この事件は外国人の目撃者も多かったため、国際的な非難が高まりますが、日本政府は犯人らに対し、〈形ばかりの裁判を行い,翌年1月,証拠不十分として全員を免訴・釈放〉(同「世界大百科事典」)してしまいます。あまり聞きたくない話でしょうが、これが真実です。

 130年以上も昔から(あるいは豊臣秀吉の頃から)日本と朝鮮の関係は(主に日本のせいで)混迷しているのです。それを理解した上で、お互いが「似ている」ことを認めあうことから始められたらいいのですが。



本を読む

『朝鮮旅行記』(ゲ・デ・チャガイ編 井上紘一訳)
今週のカルテ
ジャンル紀行
時代 ・ 舞台19世紀末の朝鮮(韓国、北朝鮮)
読後に一言平昌オリンピック記念ということで。五輪で「韓国」がちょっと近づいた気がします。この本も、韓国を理解する手助けになります。
効用国民性、風土、気候、風俗などにはじまり、産業、農業、交通、宗教、軍備などなど、19世紀末の朝鮮の様子が見えてきます。
印象深い一節

名言
(朝鮮の)国中のどこを探しても、憎悪をこめて日本人を語らぬところ、祖国を見舞ったありとあらゆる不幸の科を日本人の所為にしないところ、この招かれざる渡来者に対する狂信的憎悪の燃えさからぬところは、たとえ僅かな一隅とても見出すのが困難であった。(「序」)
類書イサベラ・バードが見た同時代の朝鮮『朝鮮奥地紀行(全2巻)』(東洋文庫572、573)
同時代の朝鮮民衆運動の記録『東学史』(東洋文庫174)
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