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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと約700冊! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『清代学術概論 中国のルネッサンス』(梁啓超著 小野和子訳注)

2018/03/08
   ここまで自分を客観視するなんて!
清代の学問を俯瞰・評論する名著

 私の中ではいまだ平昌オリンピックの興奮が冷めていないのですが、今回、日本人メダリストたちには、ひとつの共通点があることに気づきました。

 それは「自己客観視」です(たとえば宇野昌磨選手の「何点取ればメダルと思っていた」という発言が代表的です)。相手と自分の力量を把握しているから、冷静に最善策がうてる。彼らは“勢い”ではなく“冷静さ”でメダルをとったのです。

 本書『清代学術概論』の著者・梁啓超(りょう・けいちょう/リヤン・チーチャオ)は、メダリストたちに勝るとも劣らない「自己客観視」の論者です。梁啓超は、〈清末から民国初の啓蒙思想家,ジャーナリスト〉で、〈梁の文章は新民体と呼ばれる平易で新鮮な独特の文体で当時の青年に計り知れない影響を与えた〉人物です(ジャパンナレッジ「世界文学大事典」)。

 本書は、清代の学問の流れを辿りつつ、同時代の論者たちへの批評を加えた書です。ところがその中に、こんな章立てがあるのです。〈二十五 梁啓超の革新鼓吹〉、〈二十六 梁啓超の「破戒事業」〉。つまり自身を第三者として俎上に乗せ、批評を試みているんですね。

 しかも辛辣です。


 〈梁啓超は、思想界においてすくなからぬ破壊力をもっていたのはたしかだが、建設という点では、めぼしいものはなかった〉


 そして、いろいろなものに興味を持ちすぎ、一時は熱心に研究するも、〈時がたてば放棄するから、入っても深くはない〉と責め立てます。


 〈梁啓超は、その弱点を自覚していたけれども、勇気をもって改めようとはしなかった。その間しばしばくだらぬ政治活動にひきまわされて精力を消耗し、仕事を荒廃させた〉


 どうです? この自分の突き放し方。自画自賛人間が増えているこの世にあって、梁啓超の自己への冷徹さはむしろ新鮮です。換言すれば、「自己客観視」ができたからこそ、『清代学術概論』のような後世に評価される評論を執筆することができたのでしょう。

 梁啓超は、研究者たちに向けて、こう断言します。


 〈(研究の)成果の大小も問題ではない。要するに、一つの研究をおこなえば一つの貢献がある〉


 希望のある言葉です。



今週のカルテ

ジャンル思想/評論
時代 ・ 舞台1921年刊行(中国)
読後に一言著者・梁啓超は、〈つねに学問が未完成であることを自覚し、かつ完成しないのを憂え、数十年間毎日毎日彷徨摸索しつづけてきた〉のだそうです。頭が下がります。
効用他の学者に対しても、その考えに優劣をつけたりせずに、客観的に記しています。
印象深い一節

名言
そもそも人類が「学問したいという欲望」をもつのは、天性である。(三 清学の出発点)
類書梁啓超が加筆・整理した『ヴェトナム亡国史他』(東洋文庫73)
文学者・梁啓超を理解する手助けとなる『晩清小説史』(東洋文庫349)
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