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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと850点余! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『燕京歳時記 北京年中行事記』(敦崇著 小野勝年訳)

2018/03/15
   日本の“伝統”はフェイクばかり!?
中国・清代の伝統的風習との違いとは

 「わが国の悠久の歴史や伝統、文化に裏打ちされた価値観は世の中がいかに変転しようとも揺らぐことはない」

 これ、ある授賞式に寄せた我が国のトップのお祝いメッセージの一節です(2月19日、正論大賞贈呈式)。この方は“伝統”がお好きらしく、事あるごとにこの言葉を持ち出すのですが、果たして“伝統”とは?

 例えばお隣の中国は、日本の正月に疑問を持っているようです。「日本人はなぜ春節を祝わないのか」(2015年2月18日「捜狐」/Record China)、「日本ではなぜ旧暦で新年を祝わないのか」(2018年2月10日「今日頭条」/@niftyニュース)と、中国メディアはたびたび疑問を呈しています。なぜなら春節を祝うことは紀元前から続く“伝統”だからです。

 〈旧正月は、中国では春節と呼ばれ、現在でも新年を祝う行事が新暦の正月よりも盛大に行われます。旧正月を新年として祝う習慣は、韓国や台湾、ベトナム、モンゴルでも見られます〉(ジャパンナレッジ「平成ニッポン生活便利帳」)

 本書『燕京歳時記』にはこう記されています。


 〈元日に至るごとに、子刻のはじめ以後に、香を焚いて神をお迎えし、爆竹を燃やして、礼拝をおこなうのである。爆竹の音は夜中巷に達し、まつわりつづいて休まない〉


 中国文化の影響を受けたアジアの国々では、今も旧正月の“伝統”を守っているのに、日本だけ明治時代にあっさり捨て去ってしまったのです。

 さらにいうと、私たちが“伝統”と考えていることも実はアヤシイのです。『「日本の伝統」の正体』(藤井青銅/柏書房)によると、初詣は明治時代に鉄道会社が始めたキャンペーン、重箱のおせちは幕末からで、定着したのは戦後、デパートのキャンペーンによるものだと言うのです。神前結婚式は、明治の終わりにキリスト教を真似て作られたもの。喪服が黒になったのは明治の終わりで、これも西洋の物真似。夫婦の姓も、明治に苗字が義務づけられた当初は、実は夫婦別姓だったそうです。なんと夫婦同姓すら、“伝統”ではないのです。


 〈春分(彼岸の中日)の前後、(中略)この日において祖先の祠廟の祭祀を行なう。秋分の際もまた同然である〉


 「二月」の「春分」の記述ですが、この“伝統”も祝日として残るのみ? 『燕京歳時記』に記された“伝統”をつらつら読みながら、政治家が口にする“伝統”の危うさを感じずにはいられませんでした。



今週のカルテ

ジャンル風俗
刊行年 ・ 舞台1906年(中国・清)
読後に一言非常に簡潔にまとめられていて、時折漏らす著者の思い(名言を参照あれ)も、面白く読めました。
効用本書は、〈先人の記録に著者自身の見聞をもまじえて,北京を中心とする旧中国の風俗習慣・物産・技芸などが記述されていて,今日では民俗学,宗教学の貴重な資料となっている〉(「世界大百科事典」)と評価されています。
印象深い一節

名言
四月の末、開花がまさに闌(たけなわ)ならんとするとき、〔人はかえって〕悲哀の情を増しやすい。ただ柳の蔭のなかではうぐいすが婉転(えんてん)として囀り、あたかも笙竽(しょうう)をならすがごとくである。(「四月」「黄鸝(うぐいす)」)
類書清代末の北京の風俗・風物の図録『北京風俗図譜(全2巻)』(東洋文庫23、30)
長崎奉行が聞き書きした清代の風俗『清俗紀聞(全2巻)』(東洋文庫62、70)
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