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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

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『甲骨文の世界 古代殷王朝の構造』(白川静著)

2018/03/22
アイコン画像    中国最古の文字「甲骨文」
“自然”と向き合うことで文字が生まれた

 〈甲骨文が、中国における最古の文字資料であることからいえば、少なくとも東洋の文化の起源をなす古代研究は、まずここからから出発するのでなければならない。それはいわば、東洋の原点をなす〉


 これが本書『甲骨文の世界』の性格を最も表している文でしょう。著者は、〈漢字研究の第一人者〉(ジャパンナレッジ「imidas 2017」)の白川静(1910~2006年)。ジャパンナレッジにも、13年半もの年月をかけて完成した、漢字文化研究の集大成ともいえる漢字辞典『字通』がラインナップされています。

 そんな氏が、発見された甲骨文――〈占いの記録のためにカメの甲や獣類の骨に刻まれた中国最古の文字〉で、〈漢字の原形〉となった文字(同「デジタル大辞泉」)――に書かれている内容から、殷王朝の構造や社会、そこに生きる人々の精神世界を描き出そうとしたのが、『甲骨文の世界』というわけです。本書には、実際の甲骨文が450片も収められていて、これを眺めるだけでもなかなか楽しい書物といえるでしょう。

 特に興味深かったのは、第二章の「神々の世界」です。


 〈人間と交渉をもつ以前の自然は、単なる自然であった。物質と変化の世界に過ぎなかった。所与の世界である。その所与的な世界を人間の世界に引きこんだとき、人はその生命にふれた。自然は生きていたのである。そしてそこに、霊的な世界の存在することを、確認したのである〉


 文明社会とは、乱暴にいえば、定住社会です。定住するということは、その地の〈天象〉を受け入れると言うことです。それまで与えられていた自然を、自分たちの生活に組み込もうとした時、その自然の偉大さ――生きていることに気づいたのです。ゆえに、〈自然は生命以上のものであり、神であった〉と考えたのです。であれば、〈神意〉を知らねばならず、それが占いを生んだのです。甲骨文が〈占いの記録のために〉刻まれたことを考えれば、この時代の人々の自然に対する畏怖が、文字を生み出したともいえるでしょう。

 古代の人々が感じた霊的存在の代表例として、著者は〈風〉を挙げます。


 〈そこには、たしかに何かがある。しかしその姿はみえない。ひとたび怒れば、地上のすべてのものをねじ伏せる力をもちながら、つねには快いそよぎをわれわれに感じさせる〉


 風を感じに、外に出るとしますか。



本を読む

『甲骨文の世界 古代殷王朝の構造』(白川静著)
今週のカルテ
ジャンル歴史/評論
時代 ・ 舞台B.C1600~B.C.1000年代の中国
読後に一言この時代の人々が、「自然」と向き合わざるを得なかった、ということなのでしょう。それはどれほど過酷なことだったのでしょうか。
効用まさしくここに、日本を含む〈東洋の文化の起源〉があります。
印象深い一節

名言
人が霊的な何ものかの存在を意識しはじめたとき、まず霊威を示したのは自然であった(第二章「神々の世界」)
類書本書の姉妹編『金文の世界』(東洋文庫184)
同著者による字源辞典『漢字の世界(全2巻)』(東洋文庫281、286)
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