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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 451

『和漢三才図会 2』(寺島良安著 島田勇雄・竹島淳夫・樋口元巳訳注)

2018/05/10
アイコン画像    日本最古の百科事典の中に
子を持つ親の“迷い”を知る

 日本最古の絵入り百科事典『和漢三才図会』は、天(1~6巻)、人(7~54巻)、地(55~105巻)の3つに分けて構成しています。今回取り上げる『和漢三才図会 2』は、7~10巻の「人倫」のパートを収録しています。

 「人倫」とは聞き慣れない言葉ですが、これは〈人間一般〉のこと。さらに〈君臣・父子・兄弟・夫婦など上下尊卑の人間関係や秩序〉という意味を含みます(ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」)。ゆえに本書には、「武士」や「石工」といった職業図鑑的なものや、「祖父」、「妻」といった家族関係の用語が並びます。

 中でも思わず膝を叩いたのが、「子」(子息・息女)の項目です。


 〈人が一呼吸するのを一息という。また、子は自分の生んだものである。それでこれを子息という。〔女子を息女という。〕〉


 筋の通った説明です。ところがこれ、今の「日本国語大辞典」(同)を引いても出てきません。


 〈男の子ども。むすこ。また、男の子の敬称。多く、相手または話題になっている人の男の子どもをいうが、古くは女の子どもを含めていうこともある。〉


 つまり、18世紀初めのこの頃、著者・寺島良安の周囲では、こう考えられていた、ということなのでしょう。

 この項に、こんな和歌が引用されます。


 〈人の親の心はやみにあらねども子を思ふ道に迷ひぬるかな〉


 『後撰集』に収められている藤原兼輔の歌です。

 藤原兼輔を調べてみると、〈三十六歌仙の一人。紫式部の曾祖父で堤中納言と呼ばれた〉(同「世界大百科事典」)のだそうです。で、この和歌は、紫式部の『源氏物語』で、最多の引用回数を誇るとか。

 一息――親にとっての子どもに対する「一呼吸」は、いうなれば「溜息」のようなもの。子どものことを思うことは、まるで真っ暗な闇、途方に暮れて溜息が出る。「なるほど、子息かあ」と、妙に納得したのでした。

 さらに「性(うまれつき)」の項目。


 〈思うに性は理である。天命の性があり、気質の性がある。寿命の長い短いや貧富は天命の性。賢愚の差や機敏かのろまか、あるいは酒が飲める体質か飲めない体質か、はつまり気質の性で、各人で非常に異なっている〉


 つまり人の性格は、環境や親の育て方などではなく、きっぱりと生まれつきだと断言しているのです。そう思えば、道に迷いがちな親の心も、晴れるかもしれません。



本を読む

『和漢三才図会 2』(寺島良安著 島田勇雄・竹島淳夫・樋口元巳訳注)
今週のカルテ
ジャンル事典
刊行時期江戸時代中期
読後に一言実際、最近の医学の研究では、性格の50%以上(説によれば80%以上)が遺伝だとされています。まさに〈天命の性〉であり〈気質の性〉です。子どもは子ども。親のせいではないのです。
効用この巻は「職業図鑑」としての体裁も濃く、当時の社会事情がよくわかります。
印象深い一節

名言
剛(たけ)く彊(つよ)く道理に真直なのを武という。勇ましい彊さが徳に匹敵するのを武という。またよく禍乱を平定するのを武という。民を刑し、克く服させるのを武という。学んでたゆまず自分の地位を保持しつづけるのを士という。(「武士」の項)
類書オランダ商館員が記した『日本風俗備考(全2巻)』(東洋文庫326、341)
本書でたびたび引用される『顔氏家訓(全2巻)』(東洋文庫 511、 514)
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