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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 73

『ヴェトナム亡国史他』(潘佩珠著 長岡新次郎・川本邦衛編)

2018/06/07
アイコン画像    ベトナムの民族独立運動家の
熱い思いを受けとめよ!

 今、歪んだ政治を正すべく、あちこちでデモが起きています。ところが驚くことに、このデモをバカにする書き込みが、ネットでは散見します。

 〈デモは近・現代における労働者や一般市民大衆の意思表示の重要手段〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」)であるというのに! 

 熱くたぎっているのは、本書『ヴェトナム亡国史他』を読んだからにほかなりません。著者は潘佩珠(ファン・ボイ・チャウ)。〈20世紀初頭のヴェトナムにおける読書人階級出身の代表的な民族運動の指導者〉(同「世界文学大事典」)です。

 タイトル作をはじめ、「獄中記」「天か帝か」「海外血書初篇」と計4本収められているのですが、すべてが熱い! 全編、こんな調子です。


 〈私が十九歳の時に及んでわが国滅亡の最後の幕が下りたのでした。この悲惨な国運の末路に遭って、男児何人(なんびと)か無念骨髄に徹せぬものがありましょう?〉(「獄中記」)


 ベトナムは1885年、フランスの完全な植民地となります。帝国主義に蹂躙されたのです。氏は立ち上がります。


 〈自分の力は未だはなはだ大ならずとも、決心して事を行なえば出来もしよう。この時に当って、自分自身が事を起こさずして、誰の力をか待とう?〉(「獄中記」)


 氏は、〈日露戦争における日本の勝利を見て日本をアジアの盟主と仰ぎ,その援助を求めて渡日〉し、〈ヴェトナムを密出国させた300名に及ぶ青年を東京に留学させる東遊運動を展開〉(同「世界文学大事典」)しました。その時に同胞を覚醒すべく書いたのが、「ヴェトナム亡国史」です。

 その後、日本を追われ、中国で革命運動を継続します。この時、秘密裏に出版された啓蒙的エッセイが、「海外血書初篇」。〈民族運動に大きな影響を与え〉(同前)ました。


 〈いってみれば、今のヴェトナム人は、みんないっしょに、水に溺れようとしている時に、そろってただ足を濡らし、裳裾をからげて死ぬのを待っているのも同然なのです。自らを救おうとすれば、自ら強くなるより外に方法はないのです〉(「海外血書初篇」)


 そもそもフランスを自国に呼び込んだのは、時の政府でした。そして政府が道を誤った時、ファン・ボイ・チャウは声を挙げました。これぞ真の愛国でしょう。

 では今の日本は? デモが起き続けている限り、まだ救いがあるのかもしれません。



本を読む

『ヴェトナム亡国史他』(潘佩珠著 長岡新次郎・川本邦衛編)
今週のカルテ
ジャンル政治・経済/伝記
時代 ・ 舞台1900代初頭/ベトナム
読後に一言氏は、〈あえてフランスを怨まない〉(「海外血書初篇」)と記します。彼が憤っているのは、惰性で傍観し、闘おうとしない自国民に対してなのです。
効用帝国主義が東南アジアにどんな影響を与えたのか。その一端がわかります。
印象深い一節

名言
ああ、国が平和で何事もないときには、朝廷ではつまらぬ連中が高いびきをかき、うまいものに食い飽きている。世の中が悪くなってくると、戦場で、立派な男たちが命を捨て、恨みをのまねばならぬ。(「ヴェトナム亡国史」)
類書インドシナの山岳民族の生活『黄色い葉の精霊』(東洋文庫108)
フランス人の中国革命ルポ『辛亥革命見聞記』(東洋文庫165)
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