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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと約700冊! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『和漢三才図会 5』(寺島良安著 島田勇雄・竹島淳夫・樋口元巳訳注)

2018/07/12
   化粧するのにはワケがあった!?
江戸の事典で考察する化粧今昔物語

 私は昔から、「女性が化粧をする姿」にそそられるのですが、ふと化粧とは何なのかと考えてみたくなりました。

 道具を中心に収録する本書『和漢三才図会 5』には、化粧に関連した項目がいくつかあります。

 まずは「ケイ 粉」。〈染めて赤くし、頰に著ける〉頬紅です。本書によれば、中国・殷まで遡れるとか。元々は、皇帝の側室が生理であることを知らせるために顔につけた印だとあります。本当でしょうか? ジャパンナレッジで検索してみると、〈女性が頬に紅をつけて美しさを引き立たせることは、おしろいをつけることよりも、その歴史が古い。わが国では『古事記』の神話伝説のなかにみえている。当時は人間が強い者に隷属をするときには、頬紅をつけてその印とした〉(「ニッポニカ」)とあり、あながち間違いじゃないのかも。日本では奈良時代あたりから化粧として頬紅が用いられたようです。

 お次は「鉄漿(おはぐろ)」。いわゆる「お歯黒」です。


 〈堂上の諸臣はみな歯を染めて地下人(じげにん)と区別している。婦人は貴賤の別なく歯を黒くし処女と区別する。孀尼(やもめ)になると、もとに還り黒歯を磨き去って白歯にする〉


 『枕草子』や『源氏物語』にも記述がありますので、遅くとも平安時代に行なわれていたことは間違いなく、〈その後しだいに公家の男子や武士にまで及び,中世には上層の武士の間で一般化した〉(「世界大百科事典」)のだそうです。で、江戸時代には〈婚礼の前後に付ける慣習も増加し,やがて既婚女性の象徴としての性格を帯びるようになった〉のです。なるほど、頬紅やお歯黒の化粧は、いわば「識別する印」だったのです。

 では化粧は女性だけのものか、といえば、決してそうではありません。実際「おしろい」は、武士の時代になると、〈高貴な男性の間でも、身だしなみとして使用され〉(「ニッポニカ」)ます。江戸になって、女性だけが化粧するようになったのは、吉原などの「男から選ばれる女性」の存在が大きいのかもしれません。

 現代社会に目を移すと、化粧は女性の特権ではなくなりつつあります。ある調査によると、20代男性が毎月美容に使う金額は平均5000円以上。66.7%が自分の顔・体などの「ケア」をしているとか(ホットペッパービューティーアカデミー「20代男性の美容意識・行動調査2017」)。男性の化粧はもはや珍しくありません。男性も、選ばれる側になり得るという証左でしょうか。だとすれば印=化粧が欠かせないのも納得、です。



今週のカルテ

ジャンル事典
刊行時期江戸時代中期
読後に一言個人的には、化粧は「見る」だけ。「する」ものではありません。
効用化粧道具以外にも、衣服や台所道具、大工道具や農具などが収録されています。
印象深い一節

名言
思うに、額上の髪際は富士山のような形をしていて、眉もまた遠山のようである。俗に艶女を御山(おやま)というのはここから出ている。(巻第二十五)
類書江戸の化粧百科『都風俗化粧伝』(東洋文庫414)
日本の工芸の歴史『増訂 工芸志料』(東洋文庫254)
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