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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと850点余! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『江戸繁昌記 2』(寺門静軒著 朝倉治彦、安藤菊二校注)

2018/08/02
   江戸時代にもあった私設ファンクラブ
熱いファンの驚くべき行動とは!?

 江戸・化政文化の特徴は、〈江戸を中心に都市的・大衆的な文化が形成された〉ことです。〈近代を用意する国民文化の形成を促進した〉(ジャパンナレッジ「世界大百科事典)とも言われており、いわば私たちが「江戸」というときは、たいてい、この時代に成立したものが多いようです。一方で、〈政治的・批判的要素を含む〉(同「ニッポニカ」)のもこの文化の特色なのですが、本書『江戸繁昌記』はまさにそれを代表する書物といえます。

 たとえばこんな一節。


 〈近(ちかごろ)は都人其の愛する所の優の為に贔負(ひいき)相ひ競ひて、数百一連、社を結びて銭を醵(あつ)め、此れを捐(す)て、其の声勢を助く〉


 「優」とは俳優のこと。自分が押す俳優のために競い合って団体(連、社)を結成し(つまり私設ファンクラブですね)、お金を出し合って応援したんだそうです。今っぽい話です。しかも結局「金次第」ということで、ファンは毎日、小銭を貯金したそうな。ある時はファンの一団が数百もの提灯を投げ捨てた。理由は「応援する俳優がそういう行為が好きだから」。〈近代を用意する国民文化〉とは、アイドルのおっかけも含まれるのでしょうか?

 さてこうしたファンに対し、皮肉屋の著者・寺門静軒がどんなリアクションをとったのかといいますと……。


 〈鳴呼、此の土にして此の愚あり。(中略)此の愚の多き、此の事の奇なる、此の都の繁昌以って知るべし〉


 この江戸の土地だからこそ、この愚かな行為がある。愚かなことや奇妙な行為が多いことは、江戸の繁昌によって知ることができる。こう言うんですね。つまり天下太平だから愚かな連中もたくさんいる。愚かな行動が多いというのは、繁栄の裏返しである、と。

 きつい皮肉です。実際、静軒は、ことあるごとにこの理屈を持ち出します。権力側にしたら堕落腐敗にしか映らない町人の愚行を「天下太平だからね(繁昌以って知るべし)」と片付ける。町人に対しても権力側に対しても皮肉をぶつけているわけです。

 本書によれば、この時代は「出版文化の時代」でもあったようで、、静軒の本がウケたのもそのあたりに理由があります。江戸では50軒の老舗の書店がひとつの組合をつくり、その支店は100から1000。借り本の店も800軒あったそうです。これが大まかな書店の数で、末端の小さな店まで含めれば数え切れないというんですから、江戸人の本好きがわかるというもの。もっともそこにエロ本(春画)も含まれていたようですが……。



今週のカルテ

ジャンル風俗/文学
時代 ・ 舞台1830年代、天保期の江戸
読後に一言この当時、秘仏のご開帳が大流行だったようですが、とことん御利益と金儲けの話。そういう意味でも今っぽいんだよなあ。
効用当巻は「二篇」の一部と「三篇」。特に「三篇」ではこの時代の寄席(「寄」)や長屋(「裏店」)の様子が詳しく記されています。
印象深い一節

名言
聖人の道は、笑ふべくして之を笑ひ、哭すべくして之を哭す。(三篇「序」)
類書1798~1814年の見聞録『耳袋(全2巻)』(東洋文庫207、208)
18世紀後半の笑い話『江戸小咄集(全2巻)』(東洋文庫192、196)
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