1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
江戸時代は魑魅魍魎だらけ!? 和漢三才図会版ふしぎないきもの |
世間では『へんないきもの』(新潮社)にはじまり、『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)などなど、“不思議な動物”、あるいは“動物の不思議”を集めた本がウケていますが、江戸の図鑑『和漢三才図会』も負けてはおりません。特に本書6巻、7巻は、“不思議な動物”の宝庫です。
というわけで、「和漢三才図会版ふしぎないきもの」を紹介しましょう。
【風狸】(かぜたぬき) 大きさは狸かカワウソ。猿に似ていて模様はヒョウ。鳥のように空中を飛び、〈頭を撃ち砕いても、風が吹いてくればまた生き返る〉
【山精】(さんせい) 人に似ているが一本足。山蟹を食べる。彼らと関わると、〈病気になったり、住居が火事で焚けたりする〉
【魃】(ひでりがみ) 山鬼。〈人面獣身で手は一つ足は一つ〉。「魃」のいるところに〈雨は降らない〉
【川太郎】(かわたろう) 河童。〈もし頭に水があると力は勇士に倍し、また手肱(うで)はよく左右に通り脱けなめらかなので、どうすることもできない〉
【姑獲鳥】(うぶめどり) 〈鬼神の類〉で、〈人の魂魄(こんぱく)を食べる〉。〈胸の前に両乳があり、好んで人の子を取り、養って自分の子とする〉(以上、『和漢三才図会 6』より)
【吉弔】(きっちょう) 竜は必ず卵を2つ産み、そのうちひとつが「吉弔」となる。〈蛇の頭、亀の身体〉
【和尚魚】(おしょういお) 海坊主のこと。身体はスッポンで顔は〈人面、頭には毛髪がない〉
【人魚】(にんぎょ) 〈頭や顔は婦女に似ていて以下は魚の身体〉。〈暴風雨のくる前に姿を見せる〉
【青蚨】(せいふう) 蟬に似ていて、大きさはアブ。母子の〈血をとって銭に塗る〉と、使っても銭は、〈自然に還ってくる〉(以上、『和漢三才図会 7』より)
『和漢三才図会 6』は動物を中心に、『和漢三才図会 7』は魚や虫を中心に紹介する巻です。この他にも「こんな生物がいるの?」というものばかりで、UMA(未確認動物)好きや、妖怪好きにはたまりません。
しかも、こうした「ふしぎないきもの」が、虎や象などの普通の動物に混じって記述されています。江戸の人たちが、どうのように世界を認識していたのか、その一端が垣間見えます。
江戸の魑魅魍魎の世界へようこそ! 本書を紐解けば、見えなかったものが見えてくるかもしれませんよ。
ジャンル | 事典 |
---|---|
刊行時期 | 江戸時代中期 |
読後に一言 | 〈虎は犬を食えば酔う〉という記述に驚きました。〈犬は虎の酒〉なんだそうです。虎は日本の生物ではありませんので、江戸時代は、虎も妖怪も一緒なのですね。 |
効用 | 全編、図が入っており、これがまた興味深い! ご自身の目で、たとえば【魃】の姿を確かめてみてください。 |
印象深い一節 ・ 名言 | (虫は)蠢動し霊を有し、それぞれ性気を具えている。(巻第五十二) |
類書 | 本書でも引用する仙人の理論と実践『抱朴子 内篇』(東洋文庫512) 本書でも引用する江戸の食物図鑑『本朝食鑑(全5巻)』(東洋文庫296ほか) |
ジャパンナレッジは約1900冊以上(総額850万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。
(2024年5月時点)