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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと850点余! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『和漢三才図会 8』(寺島良安著 島田勇雄・竹島淳夫・樋口元巳訳注)

2018/09/06
   江戸の図鑑を“辞書で調べながら読む”
という新しい楽しみ方

 不定期で取り上げている『和漢三才図会』ですが、この江戸時代の図鑑は、以下の3つに分かれています。

(1)「天」部(1~6巻/気象や暦など)

(2)「人」部(7~54巻/人や動物、職業や道具など)

(3)「地」部(55-105巻/山や地理、植物など)

 東洋文庫でいうところの『和漢三才図会 8』から始まるのが「地」部。ボリュームとしては全体の約半分です。

 事典や辞書は、どう分類するかでその性格が出ると思うのですが、「地」部を彩るのは、「地」「山」「水」「火」「金」……です。〈古代中国の思想で、万物を生じ、万象を変化させるという木火土金水の五つの元素〉(ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」)のことを「五行」と言いますが、この陰陽五行説に影響を受けているのでしょう。

 たとえば「火」の説明。


 〈火の質は陽で性は陰。外は明で内は暗い。(中略)天に在(あ)っては日となり電(いなづま)となり、地に在っては火となり、人に在っては心となる〉

 

 『和漢三才図会』の面白いところは、「五行」を用いつつも、これが終始一貫していないところにあります。


 〈地球は本来弾丸(たま)のように円くて端はない〉


 なんてさらっと最新の学説を披露するかと思えば、こんな話題も。


 〈地の字は土也と書く〔也は女陰のことである。例えば水(さんずい)をつけると池の字となる〕〉


 正直、半信半疑です。そこで『字通』(ジャパンナレッジ)で「也」を調べてみると、本当に「女陰」の意味がありました! 一説には「也」の元の字である「なり」は「女陰」の象形文字なんだそうで……。

 さらにもうひとつ。


 〈墓は慕(ぼ)である。子孫が思い慕うゆえに墓(ぼ)という〉


 坊主が説教で使いそうなフレーズです。これも『字通』で調べてみると……残念ながら、そんな意味はまったくありません(他の辞書にもありません)。著者の寺島良安はどこからこのネタを仕入れたのでしょうか。

 ここでハタと気づきました。私は「図鑑」を読んでいるにもかかわらず、そこに書かれている内容をいちいち疑い、調べ直しているのです。そしてこの行為がまた、面白いのです(さらに「地ネタ」「墓ネタ」を人に喋るという楽しみも加わります)。

 江戸の図鑑を“辞書で調べながら読む”という新しい楽しみ方、皆さんもいかがでしょうか?

今週のカルテ

ジャンル事典
刊行時期江戸時代中期
読後に一言アヤシイ話をたくさん載せているのに、一方で、〈俗伝では琵琶湖の土が富士山となったというが、これは妄説(でたらめ)である〉と、切って捨てるんですよねぇ。突然登場する理系(医者)の視点が、また面白いんです。
効用当巻には、「竜宮」や「地獄」、「蓬萊山」も登場します!
印象深い一節

名言
思うに、霊魂火(ひとだま)は頭が円くひらたく、尾は杓子(しゃくし)に似ていて長く、色は青白に微(うす)赤を帯びている(巻第五十八)
類書本書でも引用する明代の事典的随筆『五雑組(全8巻)』(東洋文庫605ほか)
本書でも引用する史書『続日本紀(全4巻)』(東洋文庫457ほか)
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