1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
江戸の図鑑を“辞書で調べながら読む” という新しい楽しみ方 |
不定期で取り上げている『和漢三才図会』ですが、この江戸時代の図鑑は、以下の3つに分かれています。
(1)「天」部(1~6巻/気象や暦など)
(2)「人」部(7~54巻/人や動物、職業や道具など)
(3)「地」部(55-105巻/山や地理、植物など)
東洋文庫でいうところの『和漢三才図会 8』から始まるのが「地」部。ボリュームとしては全体の約半分です。
事典や辞書は、どう分類するかでその性格が出ると思うのですが、「地」部を彩るのは、「地」「山」「水」「火」「金」……です。〈古代中国の思想で、万物を生じ、万象を変化させるという木火土金水の五つの元素〉(ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」)のことを「五行」と言いますが、この陰陽五行説に影響を受けているのでしょう。
たとえば「火」の説明。
〈火の質は陽で性は陰。外は明で内は暗い。(中略)天に在(あ)っては日となり電(いなづま)となり、地に在っては火となり、人に在っては心となる〉
『和漢三才図会』の面白いところは、「五行」を用いつつも、これが終始一貫していないところにあります。
〈地球は本来弾丸(たま)のように円くて端はない〉
なんてさらっと最新の学説を披露するかと思えば、こんな話題も。
〈地の字は土也と書く〔也は女陰のことである。例えば水(さんずい)をつけると池の字となる〕〉
正直、半信半疑です。そこで『字通』(ジャパンナレッジ)で「也」を調べてみると、本当に「女陰」の意味がありました! 一説には「也」の元の字である「」は「女陰」の象形文字なんだそうで……。
さらにもうひとつ。
〈墓は慕(ぼ)である。子孫が思い慕うゆえに墓(ぼ)という〉
坊主が説教で使いそうなフレーズです。これも『字通』で調べてみると……残念ながら、そんな意味はまったくありません(他の辞書にもありません)。著者の寺島良安はどこからこのネタを仕入れたのでしょうか。
ここでハタと気づきました。私は「図鑑」を読んでいるにもかかわらず、そこに書かれている内容をいちいち疑い、調べ直しているのです。そしてこの行為がまた、面白いのです(さらに「地ネタ」「墓ネタ」を人に喋るという楽しみも加わります)。
江戸の図鑑を“辞書で調べながら読む”という新しい楽しみ方、皆さんもいかがでしょうか?
ジャンル | 事典 |
---|---|
刊行時期 | 江戸時代中期 |
読後に一言 | アヤシイ話をたくさん載せているのに、一方で、〈俗伝では琵琶湖の土が富士山となったというが、これは妄説(でたらめ)である〉と、切って捨てるんですよねぇ。突然登場する理系(医者)の視点が、また面白いんです。 |
効用 | 当巻には、「竜宮」や「地獄」、「蓬萊山」も登場します! |
印象深い一節 ・ 名言 | 思うに、霊魂火(ひとだま)は頭が円くひらたく、尾は杓子(しゃくし)に似ていて長く、色は青白に微(うす)赤を帯びている(巻第五十八) |
類書 | 本書でも引用する明代の事典的随筆『五雑組(全8巻)』(東洋文庫605ほか) 本書でも引用する史書『続日本紀(全4巻)』(東洋文庫457ほか) |
ジャパンナレッジは約1900冊以上(総額850万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。
(2024年5月時点)