1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
良き友に導かれ詩の高みへ 読書の秋は杜甫の詩を名講義で(2) |
杜甫と聞いて何を思い浮かべますか?
その特徴のひとつは、やはり李白との関係の濃さにあるのではないでしょうか。
詩聖(杜甫)と詩仙(李白)、2人を並べてみます(ジャパンナレッジ「デジタル大辞泉」)。
●杜甫(712~770) 〈現実の社会と人間を直視し、誠実・雄渾な詩を作り、律詩の完成者で詩聖と称され、詩仙と呼ばれる李白と並ぶ唐代の代表的詩人とされる〉
●李白(701~762) 〈玄宗朝に一時仕えた以外、放浪の一生を送った。好んで酒・月・山を詠み、道教的幻想に富む作品を残した。詩聖杜甫に対して詩仙とも称される〉
どちらも中国を代表する詩人であり、2人は〈李杜と並び称され〉(同「日本国語大辞典」)ました。
〈杜甫の詩がにわかにすぐれたものとなるのは,30歳代のはじめ,李白と出会ったころからである。(中略)李白という人は酒さえ飲めば,いくらでも美しい詩が口をついて出るといった天成の詩人であった。それに対して杜甫は努力の人である。李白を目の前にした杜甫が,どれほど自己の非力を嘆いたかは想像に余るものがある〉(同「世界文学大事典」)
杜甫がひと回り近く歳の離れた李白に影響を受けたことは間違いありません。事実杜甫は、李白を詠んだ詩を数多く残しています。そのうちのひとつ、「李十二伯に寄す 二十韻」の一節。
〈才高くして心は展(の)びず/道屈して善に隣(りん)無し〉
森槐南はこう解説します。
〈かやうな境遇に居りますに際してどうも己の才が無いものでありますからして、此境遇に甘んじて居ることの出来ないのは是非も無い次第である〉
李白は、唐の玄宗に仕えるも、側近の讒言で追放されます。そして洛陽(あるいはその近く)で杜甫と出会うのですが、その李白の心境を杜甫は〈才高くして心は展びず〉と表現します。才能があるゆえに、李白にとってこの境遇は心が晴れない、と杜甫は李白を慮ります。
〈道屈して善に隣無し〉。杜甫本人のことでしょうか。
〈道が屈して遂に時に容られませぬから善い事をなしても、誰も此の善い事を憐れんで呉る者は無い〉
何をやっても受け入れられない自分は、どんな良い事をしても誰からも顧みられない。李白の境遇は、杜甫の中で自分と重なったのでしょう。杜甫と李白の友情は、このあとも続いていくのでした。
ジャンル | 詩歌/評論 |
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刊行時期 | 1910年代 |
読後に一言 | 李白という天才を理解しようと努めたことが、杜甫の詩才をさらに広げたのかもしれません。 |
効用 | 『秋興 八首』など、いまの季節にピッタリの漢詩も収録されています。 |
印象深い一節 ・ 名言 | 元来杜子美の詩の体と申すものは殆んど皆杜子美に至つて悉く備つたと言つても宜いのでありまして、杜子美以前に於て五言古詩だの七言古詩といふものに杜子美の様なものは無いのであります(「五言絶句」) |
類書 | 唐代を代表する詩人のひとり『白居易詩鈔』(東洋文庫52) 唐代の鬼才『李賀歌詩編(全3巻)』(東洋文庫645ほか) |
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