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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

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『和漢三才図会 9~14』(寺島良安著 島田勇雄・竹島淳夫・樋口元巳訳注)

2018/10/04
アイコン画像    日本は“祟り”だらけの国だった!?
江戸の図鑑の「地誌」から読み解く

 不定期で取り上げて来た『和漢三才図会』ですが、今回は一気に6冊まとめて紹介します。と申しますのも、9巻から14巻まではそのほとんどが日本の「地誌」なのです。しかも地名、距離、寺社仏閣、名所のリスト……と列挙するばかりで、残念ながら読むところが少ないのです。そこで今回は、ひとつの切り口から、6冊を料理してしまおうと思います。


 その切り口とは“祟り”です。

 実際、「祟り」で全文検索すると、出るわ、出るわ……。


●善光寺(長野県)……〈慶長二年(一五九七)七月、秀吉公は本尊を洛(みやこ)の大仏殿に入れたが、仏は悦ばず祟りがあった。そこで同八月、また元に還した〉(10巻)

●北野天満宮(京都府)……〈(禁裏の火災を菅原道真の祟りと恐れ)ここに北野宮を改めて天子の造営とした〔それゆえ宮と称し、社といわない〕。その後神の祟りは徐(おもむ)ろに止んだ〉(11巻)

●八島陵(奈良県)……〈早良親王の陵〉。〈近年(早良)親王の祟りによって世人の多くが病悩し、あるいは夭死(わかじに)した〉(12巻)

●和霊神社(若宮大明神、愛媛県)……〈矢部清兵衛(山家公頼、宇和島藩家老)〉は藩士の讒言(ざんげん)により、藩主に殺害される。〈のち大いに祟り、讒者の一族は皆殃(おう)死した。そこでその霊を祭って神としたが、祟りは猶(なお)止まなかったので、若宮明神と崇めて当所の氏神とした〉(14巻)


 八島陵造営が700年代と800年代の境目、北野天満宮を造り直したのが900年代、秀吉の善光寺事件が1500年代、和霊神社創建が1600年代……と年代も場所も幅広く、「祟り」が世間を賑わせているのです。

 では祟りとは? 「祟り」が当たり前のこととして受けとめられるのは、〈御霊(ごりょう)信仰が広まる平安時代に入って〉からのことで、前述の早良親王の祟りが嚆矢です。そして〈菅原道真の怨霊が北野天神としてまつられて学芸の神とされたように、怨霊を神として祭りあげることによって守護神に変ずることもなされた〉(ジャパンナレッジ「国史大辞典」)のです。

 この「祟り」信仰は明治以降も続きます。

 〈戦争の犠牲者を靖国神社にまつり,その霊を鎮めることによって国家の政治的罪悪性を免罪し,祟りの発現を回避しようとする企てが支配層によって行われたのもその一例である〉(同「世界大百科事典」)

 「祟り」信仰は、自分の後ろめたさを棚上げすることなのかもしれません。



本を読む

『和漢三才図会 9~14』(寺島良安著 島田勇雄・竹島淳夫・樋口元巳訳注)
今週のカルテ
ジャンル事典
刊行時期江戸時代中期
読後に一言ジャパンナレッジの『字通』で調べて驚いたのですが、「祟」という字、〈呪霊をもつ獣の形〉をあらわした象形漢字なんだそうです。
効用寺社仏閣好きは、そこを訪れる前に、本書をチェックすることをおすすめします。
印象深い一節

名言
(日本)人は茶を啜(すす)るのを好み、路傍には茶店があって茶を売っている。旅人は銭一文を投じて茶一椀を飲む(巻第六十四「海東諸国記」より)
類書本書でも引用する史書『続日本紀(全4巻)』(東洋文庫 457ほか)
本書でも引用する各地の神話&地誌『風土記』(東洋文庫145)
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