1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
“白人コンプレックス”の原因は 信仰の有無にあった!? |
日本人の中には、白人コンプレックスが少なからずあります。これなんぞ典型的な発言でしょう。
〈G7の国の中で、我々は唯一の有色人種であり、アジア人で出ているのは日本だけ〉(2018年9月5日/朝日新聞デジタル)
これが政権N0.2の発言なのだから困ったものです。そもそも日本を含め、大半の国が多民族国家です。「白人国家」など存在しません。「日本はすごい!」と言いたかったのでしょうが、差別意識がダダ漏れしています。
しかし一方で、日本人の多くが、白人に何らかのコンプレックスを抱えているのも事実でしょう。白人の書いた嫌韓本がベストセラーになり、白人にテレビで「日本すごいね」と言わせ、化粧品は相変わらず美白をうたう。
では彼らにあって、私たちにないものは何か。
暴論ですが、私は「信仰」ではないかと睨んでいます。
『イエズス会士中国書簡集』の第2巻「雍正編」、第3巻「乾隆編」は、それぞれ康熙帝のあとを継いだ第5代雍正帝、第6代乾隆帝の時代のフランス・イエズス会士の中国での布教活動の報告書ですが、2巻同時に取り上げるのは、この時代がキリスト教迫害の時代だからです。布教を許した康熙帝とうってかわって弾圧が始まります。
特に第2巻から3巻の冒頭は、涙なしには読めません。皇帝の血縁の蘇努(スヌ)一族は、息子たちを中心に一族をあげてキリスト教に帰依し、それが理由で監禁、配流……と徹底的に痛めつけられます。一族のひとりがこう漏らします。
〈イエス・キリストがこの十字架上で死なれたのは罪あるもののためなのです〉
「世界大百科事典」(ジャパンナレッジ)の「イエス・キリスト」の項にこうあります。
〈イエスの死を,人間の罪を贖(あがな)う犠牲行為と信じ,このいわゆる贖罪信仰をキリスト教の教理の中心に据えている〉
この強さ! “イエスの死”という動かしがたい事実が、彼らキリスト教徒を支えているのです。蘇努一族も自信に満ち溢れています。揺るぎません。
信仰を持たない多くの日本人は、神の代わりに「お上」をいただきます。時の政治によって右往左往するのです。立ち戻る基本も真理も持ちあわせていません。ゆえに揺らがない人たち(白人)にコンプレックスを感じる……というのは言い過ぎでしょうか。
ジャンル | 宗教/記録 |
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時代・舞台 | 1720~60年代の中国・清 |
読後に一言 | イスラム教徒の間に「白人コンプレックス」があるとは、寡聞にして知りません。 |
効用 | 第2巻は悲劇の読み物として。第3巻は中国の結婚事情(第十二書簡)など、社会風俗の記述もあります。 |
印象深い一節 ・ 名言 | (棄教を迫る役人に)こんなに何度もなぐられても、なおわたしが示しています歓喜こそ、わが信仰の正しさに対するわたしの証言なのです。わたしはこの教えを守るために進んで死ぬでしょう(3 乾隆編「第一書簡」) |
類書 | ザビエルが見たアジア『聖フランシスコ・ザビエル全書簡(全4巻)』(東洋文庫579ほか) 本書の姉妹編『中国の布教と迫害 イエズス会士書簡集』(東洋文庫370) |
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(2024年5月時点)