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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 467

『四民月令 漢代の歳時と農事』(崔寔著 渡部武訳注)

2018/12/20
アイコン画像    クリスマスを全世界的に祝う理由を
2世紀の中国の文献に見つけた!?

 街はすっかりクリスマス一色です。

 中には「なぜキリストの誕生日を祝う必要があるんだ」と鼻白む人もいるかもしれませんが、ちょっと引いて見ると、実はこの時期をお祝いすることは意味があるんです。なぜならほぼ「冬至」と重なるからです。

 理科的にいえば、〈昼の長さはもっとも短く〉なる日ですが、農耕からみれば、〈太陽の光が弱まり植物も衰弱して農耕生活に一種の危機が訪れる〉日です。見方を変えれば、〈この日からふたたび昼の日照時間が長くなり、新しい太陽が輝き始める〉ともいえます(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」)。

 つまり冬至は、“終わりと始まり”の日だったのです。かつての中国や日本では、〈冬至は暦の計算の起算点として重要なもの〉(同前)だったのも頷けます。ヨーロッパでも、〈この時期に大きな祭りを行うことは古い時代の社会の慣習〉で、〈ローマ人やゲルマン人の間には,冬至の祭が盛大に行われていた〉(同「世界大百科事典」、「クリスマス」の項)のです。

 それまで〈初期キリスト教徒は1月1日,1月6日,3月27日などにキリストの降誕を祝し〉(同前)ていました。それを4世紀に冬至=キリストの誕生日と定めたのです(当時のローマの冬至は12月25日)。太陽の復活を重ね合わせたのでしょう。

 では、アジアでは、冬至はどう祝っていたのでしょうか。中国・後漢の歳時記『四民月令(しみんげつれい)』が大いに参考になります(東洋文庫所収の最も古い歳時記です)。


 〈十一月、冬至の日、黍(もちきび)・羊を薦む〉


 簡単に言うと、神や先祖にお供え物をするということ。さらに目上の人に酒を振る舞い、名刺を配って挨拶して回れ、と続きます。新たな年の始まり、ということなのでしょう。さらに「冬至の禁忌」について。


 〈陰陽争い、血気散ず。日至に先後せし各(おの)おの五日、寝(ねま)は外内を別つ〉


 精進して慎め、ということでしょうか。〈寝は外内を別つ〉とは、夫婦で寝室を別々にしろ、ということ。前後5日ですから、10日。夫婦の営みを我慢し、精を漏らさず、新しき年に備えよ、ということでしょう。

 現在のクリスマスのお祭り騒ぎと比べると、静かで厳かです。これに倣うなら、カップルや夫婦でクリスマスをイチャイチャ祝うなんてもってのほか……ということになりますが、さてみなさんは?



本を読む

『四民月令 漢代の歳時と農事』(崔寔著 渡部武訳注)
今週のカルテ
ジャンル風俗/産業・技術
時代・舞台2世紀の中国・後漢
読後に一言やや難しい表現は多いですが、文章は簡潔。この頃の人たちが季節を大切にしていたことを実感しました。
効用1年の風習を月ごとに解説。「農作業」の記述も多く、資料性が高いです。
印象深い一節

名言
農を休め役を息(や)め、恵みは必ず下に浹(あまね)くせよ。(「十二月」)
類書明治時代の歳時記『東京年中行事』(東洋文庫106、121))
朝鮮半島の歳時記『朝鮮歳時記』(東洋文庫193)
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