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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 511

『顔氏家訓1』(顔之推著 宇都宮清吉訳注)

2019/01/10
アイコン画像    日本と中国の「家訓」の元祖、
いわく「名声を高めよ!」

 新年早々「家訓」を取り上げるのもどうかと思いますが、まあそこは置いといて、約1500年前の『顔氏家訓』の一節(第一章「主旨」)を読んでください。


 〈……我がままの限りを尽くし、軽はずみなことも言い放題で、身持ちを正しく保つことは怠りがちだったのである。(中略)度はずれたことを余り行(や)らなくなったのは、やっと三十歳を越えた時分からで……〉


 私は、自分で書いた自叙伝(東洋文庫『夢酔独言他』)を、「馬鹿者のいましめにするがいゝぜ」と言い放った不良親父・勝小吉(勝海舟の父)を思い出しました。『顔氏(がんし)家訓』の著者・顔之推(がん・しすい)は、勝小吉のような不良ではありませんので、おそらく謙遜が入っているのだと思いますが、上から目線ではないところに好感を持ちます。

 で、いろいろ調べてみると、本書は、〈「古今の家訓は此(こ)れを以(もつ)て祖と為(な)す」というように,中国の家訓の古典とすべきもの〉(ジャパンナレッジ「世界文学大事典」)と評価されており、さらに日本に目を転じると、〈奈良時代に、吉備真備(きびのまきび)が中国南斉の『顔氏家訓』に倣って書いた『私教類聚(るいじゅう)』が、わが国最古の教訓書とされる〉(同「ニッポニカ」、「家訓」の項)そうですから、まさに『顔氏家訓』は、家訓の元祖ともいえる書物だったのです。

 では、何が書いてあるのでしょうか。

 「子弟の教育」や「兄弟関係」を説くのは当たり前ですが、「名前の付け方」なんてことまで触れています。中身はというと、ヘンな名前をつけるな、という教えで、6世紀の中国でもキラキラネーム問題があったことがうかがえます。

 最も唸らされたのは「名声」に関して、です。顔之推は、〈名声を高めなさい〉と奨励します。そのこころは?


 〈人格と技倆(ぎりょう)さえ充実していれば、必ずそれに適(ふさ)わしい名声が従うことになるであろう〉


 名声を高める=自分を磨く、ということなのです。ただし、安易に名声を求める人間を批難します。


 〈自分の人格を磨きもしないで、世間の名声だけを期待するのは、二目と見られぬ御面相のくせに、きれいにうつしてくれないと言って、鏡に腹を立てている御婦人のようなものだ〉


 個人的には名声なんてどうでもいいと思いますが、せめて鏡に腹を立てないようにすることにします。



本を読む

『顔氏家訓1』(顔之推著 宇都宮清吉訳注)
今週のカルテ
ジャンル教育
時代・舞台6世紀の中国・南北朝時代
読後に一言なぜ学ぶのか、なぜ本を読むのか(←名言)、いちいち納得しました。
効用6世紀の中国の社会がよくわかります。
印象深い一節

名言
実に読書こそは、天地も納めきれず神々もかくしきれない諸々の事象を細大もらすところなく教えてくれ、解き明かしてくれるものなのである(第八章「学問論」)
類書勝小吉の自叙伝『夢酔独言他』(東洋文庫138)
公家から農家まで、さまざまな家の家訓『家訓集』(東洋文庫687)
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