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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと約700冊! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『顔氏家訓2』(顔之推著 宇都宮清吉訳注)

2019/01/17
   人は必ず死ぬからこそ
精一杯生きる意味がある

 相変わらず「健康」がブームです。

 個人レベルだけでなく、今や「従業員等への健康投資を行うこと」は会社の責務となりつつあります。厚労省はこれを「健康経営」と名付けて推進しているのですが、聞いたところによると、最近は就活の判断材料にもなっているとか。

 これ、今に始まった話かといえば、そうとも言い切れません。6世紀に書かれた家訓『顔氏家訓』でも「養生論」という章を割いているほどです。

 ただしこの当時の健康法は、神仙術だったようです。ゆえに、こんな断りが……。


 〈神仙術のことは、必ずしも総(すべ)てがペテンだとばかりもいえない〉


 この一節に透けてみえるのは、皆が「長生きしたい!」と神仙術に血眼になっている姿です。本書によると、神仙修行に必要な道具を買いそろえるのに、結構なお金がかかったとか(たしかに健康器具にもお金がかかります……)。で、著者・顔之推の結論。


 〈もともとそんな風な神仙術などは成功する道理がないのだ! 仏教の教理に照らしてみても、たとえ仙人になれたところで所詮は死を免れないのであり、その限り人の世界を超越することは不可能なのである〉


 仏教に帰依していることや、戦争体験がそうさせているのかもしれませんが、著者のスタンスは、死に対して冷静です。


 〈死とは人間が常に負うべき命運(さだめ)であり、免れがたいものである〉


 私たちには、寿命があります。そしてその寿命を知ることはできません。明日突然、交通事故で死ぬかもし知れませんし、100歳過ぎても生きながらえているかもしれません。その瞬間がわからないだけで、死は、私たちに平等に訪れます。


 〈そもそも人はこの世に生きている限り、種々のことで思うに委せぬことが多いものだ〉


 著者の達観です。

 死や病気に振り回されるのが人間なのです。人生をコントロールしている、なんていえません。〈思うに委せぬことが多い〉……けだし名言です。

 とはいえ、思うに委せぬからこそ、必死になる必要があります。だからこそ著者も、自分の子どもたちの〈心得にしておきたい〉と本書をしたためたのでしょう。



今週のカルテ

ジャンル教育
時代・舞台6世紀の中国・南北朝時代
読後に一言正月早々、考えさせられました。「健康」や「長生き」は人生の目的じゃないですものね。
効用仏教(「帰依論」)について章を割いていますが、この時代の中国の仏教の受容の仕方がよくわかります。
印象深い一節

名言
この生身一つを生かすのにさえ、ぜいたくは無用の沙汰である。それ以外のことで、何を苦しんでおごりを極める必要があろうや(第十三章「八分目論」)
類書武家社会のしきたりの集大成『貞丈雑記(全4巻)』(東洋文庫444ほか)
神仙術の理論と実践『抱朴子 内篇』(東洋文庫512)
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