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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 227

『をなり神の島1』(伊波普猷著)

2019/04/18
アイコン画像    「文化」とはいったいなんだろう?
沖縄が大切にしてきた「をなり神」

 新元号「令和」の時代がいよいよ始まります。今更ですが、安倍首相が4月1日発表した新元号に関する談話が気になっています。この中で首相は「伝統」や「歴史」と結びつけた文脈の中で、「文化」を4度も繰り返しました。文化って何? 早速ジャパンナレッジです。

 〈「文化」は民族や社会の風習・伝統・思考方法・価値観などの総称で、世代を通じて伝承されていくものを意味する〉(同「デジタル大辞泉」)

 しかし、こうした意味が定着したのは、明治の終わりです。〈明治時代に「文明」とともにcivilizationの訳語として使用され〉ていたものが、〈明治三〇年代後半になると、ドイツ哲学が日本社会に浸透し始め、それに伴い「文化」はドイツ語のKultur(英語のculture)の訳語へと転じた〉(同「日本国語大辞典」)のです。乱暴にいうならば、それまで日本には「文化」がなかったのです!

 ま、それは極論ですが、一方で、〈(日本文化は)特殊であるかどうかさえ危ぶまれる〉(同「ニッポニカ」)という指摘があることも頭に入れておくべきでしょう。

 逆に言えば、日本文化が特殊であるというならば、他地域の文化も「日本と違う」という意味で、やはり特殊なのです。では、この地域の文化は?

 『をなり神の島』は、沖縄出身の民俗学者・伊波普猷(いは・ふゆう/1876~1947)の代表的論文集です。

 表題にもなっている「をなり神」の「をなり(おなり)」とは、〈琉球方言で、エケリ(兄弟)に対して姉妹をさす語で、一般に、姉妹には兄弟を霊的に守護する力があると伝え、その霊性を表して、おなり神とよぶ〉(同「ニッポニカ」「おなり神」の項)。著者によれば、〈女性を男性の上に置く言表し方が、南島全体の習わしであった〉といい、〈女子は祭事に携わったので、女人の権力が存外強かった〉と言います。なぜ「神」かといえば、女性には神秘的な力があると認められ、〈故郷を離れた男子には、をなり神が始終つきまとって、自分を守護してくれるという信仰があった〉のだとか。ゆえに船出の際は、姉妹(いない場合は従姉妹)の髪の毛や手拭いを携えたそうです。

 さてこの「おなり神」、天照大神や卑弥呼の例もありますし、〈近畿から九州にかけて、祭りの供物を用意する女をオナリ、ウナリというのと関係があるかもしれない〉(同「ニッポニカ」)との指摘もあり、本土との共通項も見出せます。一方で、日本文化に括れないものもある。こうした差異を認めることこそ文化なのかもしれません。



本を読む

『をなり神の島1』(伊波普猷著)
今週のカルテ
ジャンル民俗学
刊行年・舞台1920年代/日本(沖縄)
読後に一言〈L.アルチュセールなどのようにこれらの文化伝達の制度をすべて〈国家のイデオロギー装置〉と考え,支配階級による支配への国民の合意を調達することがその機能だと説明している〉(同「世界大百科事典」)。権力者が「文化」を口にした時、そこには国民を統制する働きがあるという指摘も、肝に銘じなければいけません。
効用本書には他にも、沖縄の農村の男女関係の風習調査など、興味深い論考が収録されています。
印象深い一節

名言
資料はかなり苦心して集めたもので、従来のとは自ら選を異にする所がある故、これを他の観点から検討して、南島を見直して頂けたら望外の幸福で、著者は南島研究の陳呉に甘んじよう。(「序」)
類書沖縄各地に伝承された歌を集めた『沖縄童謡集』(東洋文庫212)
明治期の沖縄調査行『南嶋探験(全2巻)』(東洋文庫411、428)
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