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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 232

『をなり神の島2』(伊波普猷著)

2019/04/25
アイコン画像    沖縄は独自の文化を有した
日本から独立した国家だった!

 元外交官の佐藤優氏の著作(『Gのインテリジェンス』小学館、さいとうたかをとの共著)の中に、面白い話を見つけました。かつての国民的ドラマ『水戸黄門』(TBS系)の中で、黄門様ご一行は、実は沖縄県を一度も訪れたことがないのだそうです。TBS側は、沖縄を舞台にしたかったようなのですが、沖縄のローカル局が断ったのだとか。

 江戸時代の沖縄の存在は、悲劇的です。それまでの沖縄は、海洋国家として、〈沖縄と明はいうまでもなく日本・朝鮮・南方諸国との貿易は殷盛をきわめ、沖縄の黄金時代〉を迎えていたのですが、〈慶長十四年(一六〇九)島津氏(薩摩藩)の侵略をうけ、その植民地的支配が以後二百六十年余もつづいた〉のです(ジャパンナレッジ「国史大辞典」)。一方で、〈王国体制や中国との外交関係はそのまま温存されるなど「異国」としての形式は存続〉(同「ニッポニカ」)しました。

 『水戸黄門』に話を戻すと、沖縄は、〈幕藩体制のなかの異国〉(同前)であり、江戸幕府に属さない沖縄にとって、「先の副将軍にあらせられるぞ!」と葵のご紋を突きつけられても、ひれ伏す必然がないのです。

 このことを、本書『をなり神の島2』を読んで実感しました。著者は主論文「あまみや考」の中で、沖縄の神話を検討しているのですが、これが「古事記」や「日本書紀」とまったく異なるのです。で、著者の結論。


 〈南島(沖縄)人は日本民族の遠い別れといわれているに拘らず、その古史神話と国史のそれとの間に、類似点の至って少ないのは、その南島に移住した時代の、日本の建国以前に遡ることをほのめかしているのではあるまいか〉


 同時に著者は、「日本書紀」や「続日本紀」などから、沖縄と日本の外交の記録をピックアップ。また、沖縄の7つの方言の分析から、〈原始日本語から分岐した原始琉球語から、さらに分岐したものである〉と看破します。

 ここからわかること。記紀成立以前の遙か昔に、日本列島から沖縄に渡った人たちがいたということ。その後は独自の発達を遂げ、独立した貿易国家として成立していたこと。17世紀に薩摩藩の植民地支配下となったこと。

 はたして沖縄は、日本なのでしょうか?

 安易に「日本文化」と一括りにした時、沖縄は抜け落ちているのではないでしょうか。もっと沖縄を知りたい。私の偽らざる感想です。



本を読む

『をなり神の島2』(伊波普猷著)
今週のカルテ
ジャンル民俗学
刊行年・舞台1920年代/日本(沖縄)
読後に一言薩摩藩に侵略されて以降、支配者が、日本政府→アメリカ→日本政府と替わっただけで、もしかしたら沖縄の植民地支配は続いているのかもしれません。そのことに私たちが無自覚なだけで……。
効用民俗学者・伊波普猷の研究は、その後の沖縄研究に多大な影響を与えました。
印象深い一節

名言
語中音のPが、国語(日本語)で夙(つと)にwに変じて、いつしかそれも脱落したに反して、琉球語ではいまだにPもしくはFであるのは、いうまでもなく祖語の姿を忠実に保存している例で……(「序に代えて」)
類書沖縄についても言及する柳田国男の『増補 山島民譚集』(東洋文庫137)
ロシア人民俗学者の沖縄関連論考を収録『月と不死』(東洋文庫185)
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