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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと約700冊! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『酉陽雑俎 4、5』(段成式著 今村与志雄訳注)

2019/06/06
   中国にもあったシンデレラ物語
唐のディープなエッセイを読む(3)

 南方熊楠のことを「博覧強記」といって差し支えないと思いますが、その南方が、『酉陽雑俎』著者の段成式のことを、〈宏学博物、ほとんど張華、プリニウスの流なり〉(『南方熊楠文集1』東洋文庫)と評しています。

 張華(232~300)とは、〈「博物の君子」とよばれた百科全書派の学者〉(ジャパンナレッジ「世界文学大事典」)、ローマ博物学者・プリニウス(23ころ~79)は、西洋で最初の百科事典『博物誌』を編纂した人物。いわば段成式は、東西の博物学者の雄に比すると、南方は褒めちぎっているのです。で、さらに、〈シンダレラ物語を書きつけたる〉と記しているのですが、シンダレラ物語とは、誰もが知る「シンデレラ物語」のことです。

 唐の書物にシンデレラとは? さっそく覗いてみます。

 主人公は継母に虐められている娘・葉限。葉限は密かに魚を飼っていたのですが、継母が騙して魚を食べてしまいます。悲しむ葉限。そこに粗衣をまとった人が天から降りてきて、「魚の骨に祈ると望みが叶う」と伝えます。

 ここからは現代風に超訳しますが、骨によって美しい衣裳と金の靴を手に入れた葉限は、着飾って町へ。そこで金の靴を落とす→王が持ち主を探す→葉限を見つけて結婚、というシンデレラストーリー。

 一方の継母。


 〈その継母と実の娘とは、すぐさま、石打ちの刑で打ち殺された〉


 と強烈な終わり方になっていますが、誰が読んでもこれは、シンデレラ物語ですよね。

 〈スウェーデンのビルギッタ・ルートの研究によれば、この話はオリエント起源で、西と東に分かれて伝播したものと考えられている〉(同「ニッポニカ」)

 だとすれば、『酉陽雑俎』はその証拠ということになります。つまりシンデレラは、800年初頭までに中国に伝わっていたということです。前回、龍退治の英雄譚やカラスの伝説が東西で共有されていると紹介しましたが、シンデレラ物語もまた、各地で受容されていたのです。


 〈わたしが思うに、この話は、いささか奇怪である。しかしながら、人口に膾炙している話であるから、やむなく記録しておく〉(『酉陽雑俎』1巻)


 このスタンスで段成式が記録し続けたからこそ、こうして私たちは「中国のシンデレラ」を目にしているというわけです。南方熊楠でなくとも、段成式の偉大さがわかります。



今週のカルテ

ジャンル事典/随筆
成立年・舞台800年代の中国・唐
読後に一言『酉陽雑俎』を3回にわたってお届けしました。事典形式ですが、載っているエピソードは、豊かな物語でした。
効用4巻では鬼神妖怪の拾遺、5巻では動植物の拾遺などを収録します。
印象深い一節

名言
俗に、猫が耳のうしろまで顔を洗うと、客がくるという。(続集巻八「支動」/5巻)
類書著者の詩を掲載『唐詩選国字解 3』(東洋文庫407)
段成式に言及する『南方熊楠文集1、2』(東洋文庫352、354)
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