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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと850点余! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『隋唐帝国五代史』(岡崎文夫著 川合安補訂 秋月觀暎解説)

2019/06/13
   「十七条憲法」に影響を与えた
中国・隋と唐の国のあり方

 最近、聖徳太子の作と伝わる「十七条憲法」を絶賛する人が散見されて、少し驚いています。そもそもこれって、〈守るべき態度・行為の規範を示した官人服務規定〉(ジャパンナレッジ「世界大百科事典」)――つまり役人心得ですからね。しかも、〈後世の人の偽作とする説もある〉(同「日本国語大辞典」)のです。

 とはいえ十七条憲法が、〈天皇を中心とする中央集権的国家建設をめざすもの〉(同前)であったことは間違いありません(君主の地位を絶対視する条項(3,12条)が悪用されそうで恐ろしいのですが)。では何をもって中央集権を目指したのか。


 〈推古天皇三十一年(六二三)、かつて隋に派遣されていた留学生の一部が帰国した際、「大唐国は法式備定の珍国なり、すべからく常に達(かよ)ふべし」(『日本書紀』、原漢文)と進言した。この進言は政府に採用され、その後わが国は、より積極的に唐の法制を受容し、法式備定の国をめざす途を歩み始めた〉(同「国史大辞典」「古代」の項より)


 そう、日本は中国を真似することで、国を成立させたのです。中国様様ですな。というわけで、律令国家として歩み始める日本が見習ったのが、隋であり唐です。そこで、『隋唐帝国五代史』の出番です。

 本書は、〈その学は章句に拘泥せず大局をつかみ〉(同「ニッポニカ」)と評価される明治生まれの中国史学者・岡崎文夫(1888~1950)による、隋から唐にいたる通史の講義録です。


 〈その(隋唐)統治方針は一に法制を完備し、これによって支配を行うを主とした〉


 日本がこれを真似た理由を、〈唐の威力という以外に、その公平な精神にもよるであろう〉と著者はいいます。私が面白かったのは、〈唐の王室はおそらく蛮系であったろう。隋も蛮系であるとの疑が多い〉との指摘です。〈官吏に試験を課するという方法は初めて隋によって採用せられた〉こともあわせて考えれば、純粋な漢民族王室でないゆえに、人材採用も運営も公平さをもって行いました。血縁ではなく法律に頼ったのです。そしてこの公平さが、隋・唐という統一国を成立させた、と考えられるのではないでしょうか。

 いわば中国を真似した結果のひとつが、「十七条憲法」ということもできます。当時の日本人の謙虚に学ぶその姿勢を、私はむしろ、誇らしく思います。



今週のカルテ

ジャンル歴史
時代・舞台6世紀後半~10世紀初頭の中国
読後に一言「十七条憲法」に、〈私を背きて公に向くは、是臣が道なり〉とあります。自分やトモダチのためでなく、公に尽くすことが正しい道である、と。最近の行政が、「公」の意味をはき違えているように感じるのは私だけでしょうか。
効用遣隋使や遣唐使を通じて、日本に最も影響を与えたともいえる隋と唐の歴史や制度を、俯瞰して理解することができます。
印象深い一節

名言
隋唐帝国が法制の完備せる時代であったことは支那の歴史家の最も珍とする所であり、同時に極東全般にわたりて唐の文明が最も強く影響した所以でもあろう。((二)「第一回 緒言」より)
類書著者が隋以前の中国史を論ずる『魏晋南北朝通史 内編』(東洋文庫506)
中国の官僚試験制度の歴史『科挙史』(東洋文庫470)
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