1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
読めば読むほど酔ってくる? 目で味わうお酒の名詩 |
去る7月1日、たいへんなことが起こりました! なんとジャパンナレッジの東洋文庫収録作品が80冊増えたのです!!
ま、そんな大袈裟に言われても鼻白むかもしれませんが、当コラムを担当する身としては、紹介できる作品が増えるのは嬉しいことです。
お祝いを兼ねて、さて酒でも飲みますか。
何を言ってるのかって? 実は新しくラインナップされた中に、とっておきのお酒があるんです。題して“目で味わう酒”。
まずは「独酌(ひとり酌む)」(権徳輿/けんとくよ)。
〈独り酌み 又 独り酌む
盃に満つる仙酒の色。
我身の外に見(あらは)るる物は皆虚名のみ
酒を飲む中にこそ完全なる徳は有れ。
風清く月朗らかなる時
此の酒に対(むか)へば面白きこと限りなし。〉
我身の外に見るる物――外見も肩書きも関係ねぇ! と独り酒を飲む。いいですな。酒の前に、人は平等です。
ではもう一献。「解悶(憂さを晴らす)」(盧仝/ろどう)。
〈人生は合計幾日ぞ
その半分は苦労の世の中。
ただ樽中の物が有るばかり
あれ(酒)を手ばなしたら何も彼(か)も休(しま)ひだ。〉
乾杯! のつもりが、しみじみとした詩が並びました。
どうやら〈人生は合計幾日ぞ〉というのは、“飲酒詩”の読み手の心の叫びらしく、他にも、〈幾日生きられることか知れないのに〉(「独酌」王績)、〈(人の一生は)稲妻の はためくやうな一瞬時である〉(「飲酒」陶淵明)と多くの詩に登場します。
人はいつ死ぬかわからない。だとしたら、名を求めるのはむなしくないか? そんな世間の見栄や外聞はそのへんに投げ捨てて、酒を楽しもうじゃないか。
しかし皆が皆、そんな酒飲みの戯言を聞いてくれるわけではありません。だから「ひとり酌む」。
最後に、杜甫が〈李白一斗詩百篇〉(ジャパンナレッジ「故事俗信ことわざ大辞典」)と称した稀代の酒飲み・李白の詩でお別れしましょう(「月下独酌」)。
〈花の下(もと) 一壺(ひとつぼ)の酒
独り酌んで相手は無い。
盃を挙げて明月の昇るを迎へ
我と影とで三人に成つた。〉
ジャンル | 詩 |
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刊行年 | 1961年 |
読後に一言 | 選者は中国文学者の青木正児。この方の中国エッセイは味わい深いものが多いのですが、この詩選にもたっぷり酔わせてもらいました。 |
効用 | 東洋文庫には、『唐詩三百首(全3巻)』(東洋文庫239ほか)や『白居易詩鈔』(東洋文庫52)などすぐれた漢詩集が多数ラインナップされています。この本をきっかけに、漢詩の世界へ! |
印象深い一節 ・ 名言 | 本書は酒徒が酔余の朗詠に供するのが主たる目的なので……(「凡例」) |
類書 | 同著者の中国ウンチクエッセイ『中華名物考』(東洋文庫479) 同著者の中国紀行&エッセイ『江南春』(東洋文庫217) |
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(2024年5月時点)